柳田邦男 「人の痛みを感じる国家」を読んで

人の痛みを感じる国家

人の痛みを感じる国家


人の痛みを感じる国家 (新潮文庫)

人の痛みを感じる国家 (新潮文庫)



良い本だった。

特に、今までの公害等で、官僚が規制権限の不行使により甚大な被害を放置してきたことを批判検討し、自分が被害者の立場ならという官僚意識の転換と行政倫理の確立を求めていたことは共感された。

柳田さんはそのことを「二・五人称」の視点、と呼ぶ。

つまり、二人称ほど近くはなくても、全くの痛みの共感を持たない乾いた三人称ではなく、自分の家族がもし被害者の立場になったら、という想像力や共感を踏まえた倫理の確立を訴えている。

この本自体は、311の数年前に出た本だけれど、もしこの「二・五人称」のモラルが、東電にも保安院にも確立していれば、311の被害はああはならなかったろうと思うと、柳田さんの言葉に日本の官民がもっときちんと耳を傾けていればと、なんとも残念に思われた。

また、この本は、ゲームやネットが青少年の心の発育にどれぐらい悪影響を及ぼすかということへの真摯な批判が述べられている。
傾聴に値すると思う。

そして、滋賀の図書館の館長さんの、「自殺したくなったら図書館へ行こう」という言葉とその取り組みを紹介し、その言葉を踏まえて、「自殺したくなったら絵本を読もう」あるいは「詩集を読もう」という提言を柳田さんがしているけれど、本当にそう思えた。

人に生きる力を与え、生きる力を支えてくれるのは、絵本や詩の力なのだと思う。

人の痛みを感じる国家社会になるために、私たちは相当な努力を自他に今後とも続けていく必要がある。
それぐらい鈍感な、心の荒れはてた国家社会に生きている。
そのことをありのままに認識した上で、柳田さんが言うように、少しずつ心を取り戻し、豊かに耕していくことこそが、他の何よりも、金や悪口雑言よりも、ずっと大切なことなのだとこの本を読んでて強く思った。