隠元禅師 「茅を結ぶ歌」

隠元禅師の「茅を結ぶ歌」をタイピングしてみた。
黄檗禅師太和集」を読んでいて、とても心惹かれた。
ネット上に検索してもひっかからないので、今はあんまり有名ではないのかもしれないけれど、良い詩だと思う。




「茅を結ぶ歌」 隠元禅師

茅居好し茅居好し、茅居素(もと)静かにして煩悩無し。
家の豊倹に随って楽しみ窮まり無し、節概の風情いずれのところにか討(たづ)ねん。
松微吟して幽草を動かし、天然一段の妙嘉草。
弾ぜず濁世繁華の夢、但だ惜しむ光陰無価の宝。
美少年老倒を咲(わら)ふ、老倒徧(あまね)く能く懐抱を開く。
眼乾坤に爍(かがや)いて古今を空じ、胸一帯を流して浄うして掃が如し。
常に無事にして間眠早く、柴門掩はざれども雲来り鎖す。
夢に遊ぶ東土と西天と、浄穢踏翻して幾(ほとん)ど絶倒す。
忽ち惺惺として光浩浩たり、斗室門開いて大道に通ず。
寂照円妙にして缺虧没(な)し、果然として蓬莱島に勝れり。





(意訳・私訳)

茅葺の質素な庵は良い、とても良い。
とても静かで煩悩の患いがない。
家はその時にある豊かさに従って楽しみが極まりないし、これほど自由に節操を保てる場所はどこに求めることができようか。
松の木はかすかな歌声を吟じ草木も唱和して、さながらひとつの交響詩のようだ。
俗世の繁華の夢に忙しく追われるのではなく、ただ時間という値段のつけられない宝を私は大切にしたい。
若い人はこの老いた私を笑うかもしれないが、話しかけてくれるならば私はいくらでも胸襟を開いて語ろう。
私の眼は宇宙に輝いて、古今の歴史を超越し、胸中の心地はこの周囲の世界を清めて塵を払い流すようである。
いつも無事安穏でぐっすり眠れるし、柴の門はべつに閉ざさないけれど雲がやって来て俗世と隔ててくれている。
東アジアとインドと、夢の中で周遊し、浄土も穢土もどこもかしこも旅し尽くした。
眼が覚めたら意識ははっきりと明らかで、この狭い部屋は真理の大道にそのまま連なっている。
悟りの静かな境地は完全円満で欠けたところはなく、仙人が住むという蓬莱島よりも断然今ここがまさっている。