ダワー 「日本人への手紙」

「日本人への手紙」 ジョン・W・ダワー (アメリカの歴史学者

被災者の皆さん、日本の皆さん。
この悲劇は私たち皆を結び付けています。

米国のテレビやパソコンの画面には、四六時中震災の映像が映し出され実に驚くべき事だ、心も張り裂けそうだとニュース解説者が訴えています。
米市民はそれを見て、恐ろしいと思っているだけではありません。
日本の被災者の方々に深い同情を抱いています。
同情は、米政府による対応を生み出しています。
人々は赤十字義援金を送り、日本の知り合いに電話をかけ「家族はみんな無事か」と尋ねています。

それだけではありません。
たとえば、私がたまたま知った小さな民間運営のウェブサイトでは、芸術家や芸能人に呼びかけて、商品のデザインをお願いし、日本の大震災の被災者救済のためにチャリティー販売をしようとしています。

日本の試練に心を寄せる、そうした市民の活動が世界中で起きています。
われわれはひとつの人類なのだという思いを示すものであり、心強いかぎりです。

みんなが一緒になろうとする気持ちが、さまざまな規模でどんどんと広がっているのは、日本も同じでしょう。
当然なことです。
それは1995年の阪神大震災の時に被災現場で起きた、感動的な人々の反応を思い出させます。
あの時、社会的な区別はほとんどなくなって、職業も立場も異なるような人々がみな、被災者を助け、生存者を救おうとしたのです。
16年前のあの悲惨な体験の時に、まさに人々の心の最も良いところが表に出てきました。
いま、同じことを私たちは目にしています。

この悲劇によって、当面、日本では政治的ないさかいや行き詰まりは脇に追いやられています。これが続くことを祈りましょう。

菅直人首相が「戦後最も厳しい危機だ。この危機を乗り越えていけるかが全ての日本人に問われている」と表明したことは、米国でも広く伝えられています。
思わず身が引き締まります。
日本は過去にも、とてつもない破壊や災害に直面し、驚異的なまでに心をひとつにして、信じられないような創造力を発揮し、立ち向かってきたことを思い起こさせます。

津波の恐るべき破壊の映像を見ると、私は空襲で破壊し尽くされた45年の日本の市や町に思いを致します。
広島・長崎への原爆投下の前に、60を超える都市が廃墟となり、子どもも含め何十万もの人々が命を失いました。
日本がどれだけ破壊し尽くされたか、今では覚えている人も少ないでしょう。

当時、ほとんどの日本人や外国人にとって、迅速な復興など想像もできないほどでした。しかし、やり遂げたのです。
日本人は献身的に一から始めたのです。
今では当然のように見えるかもしれません。
だが英雄的でした。

今回もまた必ず、日本はそうするでしょう。
世界が見ています。
喜んで支援の手を差し伸べようとしています。
日本が癒やしと復興への道を速やかに歩むことを期待しています。

西日本新聞三月十九日付夕刊)