土屋竹雨 「原爆行」

土屋竹雨 「原爆行」
            
怪光一綫下蒼旻  怪光 一綫(いっせん) 蒼旻より下り、
忽然地震天日昏  忽然 地震ひ 天日昏(くら)し。
一刹那間陵谷變  一刹那の間  陵谷変じ、
城市臺榭歸灰燼  城市 臺榭(たいしゃ)灰燼(かいじん)に帰す。
此日死者三十萬  此の日 死する者 三十万、
生者被創悲且呻  生者は 創(きず)を被り 悲しみ且つ呻く。
生死茫茫不可識  生死 茫茫  識(し)る 可(べ)からず、
妻求其夫兒覓親  妻は其の夫を求め 兒は親を覓(もと)む。
阿鼻叫喚動天地  阿鼻叫喚 天地を 動(どよ)もし、
陌頭血流屍横陳  陌頭(はくとう)血流れて 屍 横陳す。
殉難殞命非戰士  殉難 命を殞(おと)すは 戦死に非ず、
被害總是無辜民  害を被るは総じて 是れ  無辜の民。
廣陵慘禍未曾有  広陵(こうりょう)の惨禍 未だ曾(かつ)て有らざるに、
胡軍更襲崎陽津  胡軍 更に襲ふ  崎陽(きよう)の津(しん)。
二勝X荒涼鷄犬盡  二勝X 荒涼として 鷄犬 尽(つ)き、
壞墻墜瓦不見人  壞墻(かいいしょう)墜瓦(ついが)人を見ず。
如是殘虐天所怒  是(か)くの如き残虐は 天の怒る所、
驕暴更過狼虎秦  驕暴 更に過ぐ 狼虎の秦。
君不聞啾啾鬼哭夜達旦  君聞かずや 啾啾たる鬼哭 夜 旦(あした)に達し、
殘郭雨暗飛障u燐  残郭(ざんかく) 雨暗くして 障u燐を飛ばすを。


(大意)

怪しげな光が一瞬、青空から放たれたかと思うと、
突然、地面が震え、空は真っ暗になった。

たった一瞬の間に地形が変わってしまって、
都市の何もかもが灰燼に帰してしまった。

この日の死者は三十万人、
生き残った者も、深い傷を負って悲しみうめき苦しんだ。

死体も生き残っているものも、あまりにも被害が大きくて全く状況がわからなかった。
妻は夫を、子どもは親を、必死で探し求めた。

阿鼻叫喚の声は、天地に鳴り響きどよめいた、
道路という道路には血が流れ、遺体が転がっていた。

この原爆の犠牲者は、決して正規の軍隊の人々だけではない、
そのほとんどが、非戦闘員の、何の罪もない一般市民たちだった。

広島のこの惨劇は、歴史上未曾有のものであったというのに、
アメリカの軍隊はさらに長崎まで襲って原爆を投下した。

広島と長崎の二つの都市は、荒涼として、あらゆるものが死滅してしまった。
廃墟と瓦礫ばかりで、人の姿も気配もどこにも見あたらなかった。

このような残虐無道な行為は、必ず天が怒るところとなるだろう、
これほどの暴虐と残酷さは、趙などの人々を大量殺戮した秦の始皇帝をも上回る。

君は聞かないだろうか、
亡くなった人々のすすり泣く無念の涙声が、夜にも朝にもたちのぼり、
廃墟の物陰から、黒い雨に打たれながら、青い人魂がさまようのを。