安藤昌益 「万万心」の章

「統道真伝」禽獣巻・二


万万人は全く一穀精神の凝見にして、面貌全く同一ならず。
何が故にか。是れ五行自り(ひとり)然る(する)進退なり。
自り然る故に、五行は全く同一なり。進退する故に五行の自り然るにして全く同一ならず。
眼・耳・鼻・口・舌、これ五行一面、四肢は一身にして是五行一体なり。
喜怒哀楽平にしてこれ五行一心なり。
一面・一体・一心なること、万万人皆これにして、万万人が全く一人なり。
一人なるときは、五行自り然るなり。
万万人が一人にして全く同じき則(とき)は、一人が万万人となり通用すること能わず。
故に一人が万万人・万万面・万万形・万万心となるは、これ妙用を尽くさんが為に、自(ひと)り然る五行が進退して之を為す。
故に全く同じうして万万人が一人となるは、これ五行の自り然るなり。全く同じからずして、一人が万万人・万万面・万形・万心となるは、是れ五行の進退するなり。

故に一真に座して自感して万妙を尽すは、五行自り然る進退なり。
故に五行自り然るときは全く同じく、進退するときは全く同じからず。
同じからざる故に、一人が万万人と成れども痛痒を達して全く同じからざるなし。
全く同じきが故に、万万人・万万形・万万心を一人・一形・一心と為るに違う所なし。
故に万万面・心同じき則(とき)は、万万人通用達すること能わずして世界立たず。
故に万万面・万心にして同じからざるが故に、能(よ)く万国通用して世界常なり。
万万人・万面・万心にして唯一人・一心・一面なる故に、一真なき則(とき)はまた世界立たず。
故に万万人が一人、万万心が一心なる故に能(よ)く世界常なり。


故に人の面、人の心、吾が面、吾が心に同じからざるを、醜しとして悪(にく)むべからず、美なりとして泥(なず)むべからず。
同じからざるが故に吾有り。
悪むべからず、泥むべからずと知る則(とき)は万面の不同・万心の不同と吾と全く同じうして二人無し。
二人無しと知る則は、万万人が吾一人なり。
吾一人と知る則は、吾は万万人なり。
万万人は、進退する妙用なり。
一人は自然の妙真なり。
故に万万面・万万心の不同と一人・一心と、二にして一と観る則は真道を得るなり。
一面・一心・一人は自然の真なり。
万面・万心・万人は自然の進退なり。
進退は妙用を尽くし、自(ひと)り然(す)るは一真を極む。
故に自り然るは一真の体なり。
進退するは一真の用なり。
この故に一人が万面・万心となる不同は、真の妙用なり。
万面・万心が一人・一心となるは、真の主(つかさど)りなり。
故に自り然ると進退と、妙用と妙主とは与(とも)に万万人の不同と一人の全同とにして、一真の全体なり。
もし不同を嫌い全同を好み、全同を知らず不同を好む則(とき)は、真にあらず。皆失(あやま)りなり。