- 作者: 高橋三郎
- 出版社/メーカー: 教文館
- 発売日: 1994/01
- メディア: 単行本
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これはすばらしい名著だった。
新約聖書の成立過程を丹念に解きあかし、「使徒」と呼ばれる人自身が執筆したテキストは新約聖書の中で実はパウロ書簡のみであり、福音書や二次的に福音の背景を明らかにするために成立したことを明らかにしている。
しかも、福音書の成立過程を解き明かし、編集者の意図によって諸資料の断片が構成されている以上、福音書をいくら読んでも確定的な事実は明らかにしえないことを指摘している。
その上で、真理の複数証言ということが重要であり、どれか単一の福音書のみ重視したり単一のものをつくるのではなく、複数の福音書があることこそ、そして複数の真理証言から全体としての真理をつかむことこそ重要であることを指摘している。
また、パウロの課題が「律法からの解放」であり、律法によるイスラエルから信仰によるイスラエルへの移行こそパウロらによって行われた決定的に重要な出来事だったのであり、それに比べればルターの宗教改革や内村鑑三の無教会主義はそれほど断絶的な契機を持たず、カトリック・プロテスタント・無教会はどれも信仰によるイスラエル=神の民の内部のことであるという指摘もなるほどと思った。
また、カトリックはマタイ的教会観を、無教会はヨハネ的エクレシア観を継承しており、これはもともと福音書においても併存していたものであって、真理の複数性として一方を排除すべきではないというのは、なるほどと思った。
繰り返し読まれべき名著と思う。