今朝、やっと時間ができたので、一昨日に出された石破茂首相の戦後80年についての「所管」の動画を見て、テキストを読んだ。
感想としては、基本的には異論がないのだけれど、いくつか違和感を覚えたところがあった。
一点目の違和感は、当たり前の歴史的知識が長々と述べられていたことである。
こういうのは学校教育やテレビの教養番組がなすべき仕事であり、総理の言うべきことなのだろうか。
石破首相としては、日本の右傾化への憂慮や、こうした当たり前の歴史知識の共有や前提が崩れつつあるという危機意識のもとに行ったということなのだろうけれど、この記者会見で述べられている歴史知識は、高校の日本史や大学一、二年の歴史系の教養の選択科目や、NHKの歴史番組では必ず扱われる、当然の知識なのではないだろうか。
そもそも、石破さんが自分が学んだとこの記者会見の中で自ら言っている、半藤一利の著作などを読めば、十分に書かれていることである。
政治の仕事と、学問やメディアの仕事との、役割分担や境界線が、石破首相の中でどのようになされているのか、ちょっとよくわからない印象があった。
これは先に行われた国連総会での演説も同じで、演説の前半で長々と安全保障理事会の歴史を石破首相が述べていたのだけれど、その程度のことは国連総会に出席している各国の代表は当然の前提にしていることではないかと思われた。
もっとも、こうした当然の前提がもし本当に崩れているのだとすれば、それはそれで大問題だし、石破首相の憂慮もわからなくはないが…。
二つ目に疑問なことは、石破首相は今回の「所感」は、戦後50年、60年、70年の談話の歴史認識はそのまま継承し、ただしそれらでは述べられていなかった、なぜ日本は先の大戦に突入したのかという、戦争を避けられなかった理由を論じるものだとしている。
そして、憲法、文民統制、議会、メディアの問題を指摘している。
そこで述べられていること自体はべつに異論はないのだけれど、気になるのはそこで述べられていないことである。
つまり、もっぱら政治システムの問題のみが論じられていて、その背景にあった、日本人の精神構造の問題、つまり個人の自立や主体的責任意識が希薄という問題について、ほとんど述べられていない点である。
敗戦直後、丸山眞男や大西巨人や渡辺一夫や矢内原忠雄などの知識人が問題にしたのは、それぞれ表現の違いはあったとしても、結局はこの個人の自立や主体的責任意識が希薄であるという日本の精神文化の問題だったと思う。
石破首相は、実際の記者会見では触れずに、あらかじめメディアに配布したPDFの原稿では「国民一人一人が先の大戦や平和のありようについて能動的に考え」ということは言っているので、全く個人の自立について論じていないわけではないとは言えるとしても、全体として、戦後の知識人が一番問題とした事柄がぼやけている印象は否めない。
三つめの違和感は、実際の記者会見では言及されず、あらかじめ記者に配布されたPDFにのみ記されていたことだが、「東條英機陸軍大臣も、近衛文麿首相に対し、「人間、たまには清水の舞台から目をつぶって飛び降りることも必要だ」と迫ったとされています。」として、東條を戦時中の非合理な思考の典型として言及していることである。
しかし、この東條の発言は、近衛の手記にのみ記されていることであり、近衛が自己弁明と責任回避に努めたという文脈を考えると、本当にそうした発言があったのかはかなり疑わしい。
むしろ近衛こそが日本をあれほどの外交的手詰まりに追い込みながらさっさと総理を辞職し、東條はどうにもならぬ状況で日米戦争回避に努めながら戦争に突入せざるを得なかった状況を考えると、この引用は極めて疑問である。
非常にステレオタイプな歴史観で、実際に無責任だった人間を免罪している不適切な引用なのではないかと思われてならない。
ひょっとしたら、直前にそうした懸念を誰かが助言して、実際の記者会見では言及しなかったのかもしれない。
以上、三点がどうしても違和感として拭えない。
とはいえ、全体として見れば、それ自体は当然というか、そのとおりと思える内容だった。
だが、もう一つ、最大の違和感は、これが総理大臣の「談話」ではなく「所感」として、8月15日ではなく、10月10日に出されたことである。
そのため、仮に石破首相が強い思いをこめて発出したと主張したとしても、かなり印象や記憶が希薄なものになっていくのではないか。
自民党内の駆け引きや反対があったとしても、なぜ8月15日に談話として発表できなかったのだろうか。
政治的な意味のある発言とするためには、上記の決断をするかしないかは、かなり大きかったと思われるのだけれど。
石破首相 記者会見 HP
https://www.kantei.go.jp/.../statement/2025/1010kaiken.htm https://www.kantei.go.jp/jp/content/20251010shokan.pdfl