シュメル神話の世界―粘土板に刻まれた最古のロマン (中公新書)
- 作者: 岡田明子,小林登志子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/12/01
- メディア: 新書
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粘土板の解読によって再び知ることができたシュメルの神話の世界は、とても豊かで興味深い。
ギルガメシュ叙事詩やルガルバンダやニンウルタの物語ももちろん興味深いが、この本で特に心に残ったのは、ウルなどのシュメルの主要都市が異民族の攻撃で滅びた後の「滅亡哀歌」と呼ばれるジャンルである。
都市や王朝の滅亡の嘆きと、その描写を見ていると、本当にさまざまなのちの人類の王朝や都市の滅亡、そして昨今のシリアなどの亡国の様子を見るようで、胸が痛む。
諸行無常と哀歌は昔から人の世の常だったのだろうか。
あと、イナンナ(イシュタル)が冥界に下り、誰か身代わりを置かないとこの世に戻れないとなった時に、自分の死を嘆き悲しんでいる知人友人たちは身代わりとせず、能天気に明るく楽しそうに暮らしていた夫のドゥムジ(タンムズ)に激怒して身代わりとして冥界に送ったという説話は、なかなか面白かった。
イナンナ(イシュタル)は、ユング心理学だと大地母神の原型をあらわしていて、母性の良き側面と悪の側面と両方現しているそうだけれど、なかなか興味深いものである。
あと、何より興味深いのは、シュメルだと神話で障害のある人々の職業が決められて、ちゃんと生きていけるように社会参加できるように配慮されていたということである(たとえば目の見えない人は宮廷の音楽師になるなど)。
よくできた文明だったんだなぁと感心。
シュメル―バビロニアーアッシリアなどのメソポタミア文明は、旧約聖書を通じていろんなところに今も人類に影響を与え続けているわけで、やっぱりきちんと知っておいた方がいいのだろうなぁとこの本を読んであらためて思った。