楳本捨三 「いまなぜ第一次世界大戦か―教科書では学べない戦争の素顔」


両軍合わせて六千六百九十四万四千名の将兵が全戦線でぶつかり、九百万が戦死・戦病死し、三千七百万人が負傷した。


その未曾有の出来事だった第一次大戦について、著者は切実な問題関心に基づいて、よく全体像をまとめてある。


ただ、どちらかといえば第一次大戦の前期にほとんどの紙幅が割かれ、後半はわりと少なめの記述である。


著者、第一次大戦を前期と後期に分け、前期には古典的色彩や戦術が多く、旧時代の騎士道の華やかな影が見られたが、後期は近代戦の残虐な皆殺し戦争への扉が開かれ、人間らしい心を持ってはもはや戦争が不可能になっていった、とまとめているが、本当にそのとおりと思う。


また、日本が一次大戦で漁夫の利を得たことが、長い目で見た時に必ずしもプラスとばかりは言えなかったこと、二次大戦の日本以外の各国の中心人物が皆一次大戦で経験を積んでいたのに、日本は一次大戦の経験がなかったことの問題を指摘しているが、たしかにそのことは深く考えさせられることである。


チャーチルは、一次大戦について、人間社会に百年かけても消すことのできない大きな傷を負わせた、と言ったそうだ。
もうすぐ百年経つが、はたしてその傷は癒えたのだろうか。
あるいは、ちゃんと生かすべき教訓を忘れずに、人類は少しは賢くなったのだろうか。


一次大戦からわずか二十年ぐらいで二次大戦を繰り返した愚を繰り返さないためにも、一次大戦に学ぶことは、あらためて百年をもうすぐ迎えるいま、大事なことかもしれない。