野口悠紀雄 「世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか」


我々がいまどのような経済状況にいて、これからどうなるのか、そしてどうすべきなのか。

その、一番知りたい問いに、最も明瞭に答えている本だと思う。

多くの人に、できれば全国民に読んでもらいたい。

この本が指摘している、産業構造の転換の必要を、民主党自民党という二大政党が、そしてその支持者や国民の多くが、どれほどきちんと認識しているのだろう。


この本の中で、著者は、

・2008年以降の日本の経済状況の厳しさ。2007年の水準には当分は戻らない。大きな企業収益の落ち込み。
雇用調整助成金がなければ、日本の失業率は9〜14%ぐらいになりうる。
雇用調整助成金やエコポイントなどの購入支援策はいつまでも続けられない。「時限爆弾」のようなものである。
・過剰設備の廃棄がいま一番必要なことである。
JAL破綻は日本の未来図。
GM破綻は日本の自動車産業の未来図。
新興国シフトは日本にとって自殺行為。新興国向けの最終消費財提供は、低価格・低賃金を日本に招くことになる。
・中国のGDPデータは信用できないものである。

といった冷厳な事実を、そしてあんまり俗事には入っていない事実を、淡々と豊富なデータをもとに述べている。

そして、今本当に日本にとって必要な決断は、製造業の比重を下げ、介護・都市基盤整備・最先端産業(情報・先端農業)の充実による内需主導経済に政治主導で取りくみ、産業構造の転換に向けて努力することだと明確に指摘する。

しかし、民主党自民党ともにさまざまな要因とビジョンや政策立案能力の不足のため、そうした本当に必要な改革には今のところ全く乗り気ではないし望めそうにない。
日本の悲劇の本質は、政治の貧困である、と結ばれている。

もしできることがあるとすれば、たぶん、多くの国民が、二大政党よりも先に、産業構造の転換と介護等の充実の必要に目覚め、そうした政策を求める声を高めていくことだろう。
草の根の、地道な情報交換や情報発信しか、もはやこの国に活路はないのかもしれない。

たぶん、強力なリーダーが突然、産業構造の転換を引っ提げて天から降ってくるということはないし、仮にあっても国民がそのビジョンを共有しない以上、そのリーダーが首相になれるわけではない。
できれば、この本が多くの国民に読まれて欲しいと思う。

そうでなければ、すでに失われた十五年、失われた二十年がが、これからさらに失われていく十五年、失われる二十年になってしまうのかもしれない。