小室直樹ほか 「韓非子の帝王学」

韓非子の帝王学

韓非子の帝王学


現代の日本人の政治音痴をどうすればいいか?

韓非子を読め。

そんな出だしから始まる、なかなか刺激的な小室直樹韓非子論だった。

小室直樹が言うには、韓非子理論は一種のモデル、理念型として理解すべきだという。

時折、韓非子はあまりにも人間を利己心から見過ぎているとか、過酷酷薄な功利主義者だと言うものがいるけれど、これほどの韓非子への誤解と誤読はないという。

つまり、韓非子は現実を分析するためにあえて最単純モデルを提示したのであり、そのうえでより複雑な現実を理解するためには道徳や人情も加味すればいいだけのことで、

いわば、経済学がとりあえず利己心や実物財からモデルをつくって現実を分析しようとするのと、韓非子は同じだというのである。

通俗的韓非子誤解や韓非子批判を打ち砕く、とても見事な視点の提示と思う。
現実分析のための理論モデルとして読むべきというのは、本当にそのとおりだ。
当為と現実の峻別を韓非子は行ったというわけである。

韓非子の最も大きな功績は、中国人の歴史不変・古代モデルの常識を打ち破り、歴史の段階や時代変化の認識を導入したことを挙げていることも、たしかにそのとおりと思う。

国民が「明主」となり、官僚に国を乗っ取られないようにするには、また無気力で卑屈な議会政治にならないようにするには、韓非子をこそ読むべきなのかもしれない。

ただ、この本は共著なのだけれど、西尾幹二の部分が、韓非子とは関係ない戦後日本や左翼批判がえんえんと続くのには閉口した。
小室さんと、市川宏さんとの二人だけの本の方が良かったのではなかろうか。

市川さんの韓非子の抜粋も読みやすくて面白かった。

韓非子の「胸中の法度」、つまり自分の心の中にしっかりルールを持つという言葉も心にのこった。

また、

「民に蔵して府庫に蔵せず」

つまり、庶民にこそ富を蓄積させるのが本当の国の富であり、税金をとりたてて国庫を富ませることばかりが富国ではない、という言葉は、安易な消費税増税や重税国家化に走る今の政治家や官僚に聞かせてやりたい肝に銘じて欲しいと言葉と思う。

なかなか面白い本だった。