トーマス・ペイン 「コモン・センス」

コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)

コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)


この本には、「コモン・センス」の他に「厳粛な思い」「対話」「アメリカの危機」が収録されている。
どれも、アメリカがイギリスから独立する頃、多くの人々の魂を揺さぶり、独立へ鼓舞した、当時非常に多くの人が読んだパンフレットだったそうだ。
当時のアメリカの人口が250万人で、「コモン・センス」は50万部売れたというからたいしたものだ。


内容もとても興味深い。


政府よりも社会が先に存在し、重要だというペインの持論は、ずっと後年のアレントの「革命について」でアメリカ独立革命の重要な点として指摘されるところとまさに呼応している。


聖書に基づく王制・世襲制批判や、イギリスの立憲制度への批判は、今日の日本人には縁の遠い話とはいえ、そのメラメラした熱烈さに、なんだか当時の共和主義の情熱や息吹みたいなものを感じさせられる。


ペインの一連の文章における「イギリス」と「アメリカ」を、今の「アメリカ」と「日本」に置き換えてみたら、案外と面白いのではないかと読みながら思えた。


隷従の拒否や、多元外交、自由貿易などを熱烈に説くペインは、今の日本を見てもおそらく同じことを言ったのではなかろうか。


「対話」の中の、イギリスに逆らうことを恐れる議員に対して、


「わたしは、隷属という破滅的な結果しか考えていません。
戦争の災いは一時的なもので、その及ぶ範囲も限られています。
しかし隷属の不幸は広い範囲に及び、またその影響も長引きます。」
(107頁)


という言葉は、なかなか戦後の日本では発せられにくい、しかし本当は一番大事な言葉ではないかと思う。


アメリカの危機」の中で、
「ともかく、わたしが生きている間は平和であって欲しいんです。」
という態度を退け、
「もめごとが避けられないとすれば、わたしの時代にそれを片づけて、子供には平和な暮らしをさせてやりたい」
という態度や精神をこそ唱えているのも、今の日本人の多くが聞くべき言葉ではないかと思った。


人の魂を揺さぶる、正義感と独立への希求のこもった書物だと思う。
アメリカ独立戦争の頃の精神を偲ぶよすがとして、そして何よりも未だに恥ずべき対米従属状況にある日本が、少しでも独立心を取り戻す参考として、読むといい本ではないかと思う。