小林司 「ザメンホフ」

ザメンホフの生きた時代背景が詳述してあって、とても面白かった。
ロシアの支配下ポーランドで、しかもユダヤ人として生まれたザメンホフにとって、
革命前夜の激動の歴史や、相次ぐポグロムユダヤ人虐殺)の頻発は、切実に自分の実存に関わることだったのだろう。

エスペラントは決して好事家がつくった楽天的な言語などではなく、
「生き残るか、殺されるかの民族差別の血みどろのルツボから絞り出されるようにして造られた国際語」(同書228頁)
だというのは、読んでてなるほどなーっと深くうなずかせられた。

エスペラントを学ぶものは、いかにエスペラントが真剣な実存をかけて、大変な歴史の中から切実な祈りとともに生まれてきたものか、その背景や由来を知っておくのも、あるいは本当にこの言語を血肉化するためには大事なことなのかもしれない。

また、この本の中で、ザメンホフエスペラントの例文集にハイネの詩を多々とりあげていることが当時の時代背景ではいかなる意味があったかをスリリングに推理してあるところも、とても興味深く説得力があった。

また、晩年のザメンホフが、ヒレル主義という宗教的中立主義を唱え、さらにそれを発展させて「人類人主義」(ホマラニスモ)という思想を深め唱えようとしていた、ということもとても興味深かった。


友愛と口にするのはたやすいが、自分の実存と生涯をかけて、本当に人類が友愛化するように努めた人は、決して多くはないと思う。
そして、その努力は、たとえ少数であっても、きわめて貴重な、不滅の輝きを人類の歴史の上に放つものだと思う。
ザメンホフは、その本当にかけがえのない貴重な人の一人であり、その最大の人だろうと、この本を読んでてあらためて思った。

エスペラントの「内在思想」(interna ideo)を知るためには、格好の一冊と思った。