井上ひさし 『「けんぽう」のおはなし』

「けんぽう」のおはなし

「けんぽう」のおはなし




井上ひさしさんが、生前、小学校で行った実際の講演をもとに、絵本にした本だそうである。


冒頭の、


「きみたちが日本人なのは、じつは、自分で選んで決めていることなんです。」


という言葉に、ガツンとやられた気がした。


本当になあ〜。


そして、以下のような内容のメッセージが続く。



もめごとは話し合いで解決すると決めた。
何よりも、一人ひとりの人間を大切にしていこうと決心した。
国の幸せのためにみんながいるのではなく、みんなの幸せのために国があるはず。
国や社会のために一人ひとりが犠牲になることはもうやめよう、個人を尊重しようと決心した。


幸せは人それぞれ違う。ただし、ちゃんと自分で考えて、自分の幸せは自分で決めなくてはいけない。


みんな自分らしく生きているからこそ輝いている。
お互いの違いを認めあって、ともに生きる。
それが「個人の尊重」。


自分も、相手も、世界でたったひとり、だれともとりかえがきかない、だから大事、一人ひとりがみんな大事なのです。


人間一人ひとり、かけがえのない存在として、大切にする社会。
それを大事にしていこう、というのが日本の「憲法」。
きみたちはそんな日本を、自分で選んでいる。
これからしっかり生きていってください。



井上さんのメッセージは、戦後日本の初心、といえばいいのだろうか。
初発の、初一念の、そして今ともすれば忘れられがちなことを、とてもあざやかに思い起こさせてくれるメッセージだった。
賛同するにしろ、反対するにしろ、今の日本の「初一念」「初心」を思い出すことは、いずれにしろ大事だと思う。
私は、その中には、とても尊いものが含まれていると思う。


置き去りにしてはならない、大切な思いや願いがこめられたメッセージだと思う。


大江健三郎さんがあとがきに書いているように、繰り返しアンコールして、時折また読み直したい、素敵な一冊だと思う。