大西巨人の鼎談イベントでの記録メモ

(2008年12月10日での大西巨人先生の鼎談イベントでの記録メモ)


Q1,(私の質問)『神聖喜劇』の中では、さまざまな階層出身の登場人物を通して、戦前における格差社会が描かれていると思います。
昨今、再び、日本では格差社会が問題とされています。
大西先生は、格差社会ということについてどう思われますか?また、戦前と今の格差社会の相違点や類似性についてどう思われますか?

A1,相違よりも、類似が多いでしょうね。
類似しております。
昭和五、六年の頃と、今はよく似ていると感じています。



Q2,(司会の人)昭和五、六年に似ているということをさらに詳しくお伺いしたい、昭和五、六年頃というのは、後世から文学作品などを通して眺めると文化面では華やかな面もあったように思われますが?


A2,一見華やかに見えることの中に、実はこれから悪い事柄につながっていくという事がある、というのは、よくあることで、ありうることだと思う。



Q3,(もうひとりのコメンテーターの方)満州事変頃に似ているというのは、よくわかる、日中戦争で不可逆になった、まだ不可逆ではないけれど、上海事変で不可逆の方へと突き進んでいく、いまそのちょっと前のような時代と思う、そんな中で、希望や平和をつくるのは文学だと思う、 それについて先生はどう思われますか?


A3,それは、そのとおりと思う。
また、文学はそうでなきゃならない。


Q4,大西先生は著作の中でマルクスを高く評価している箇所があるが、現代におけるマルクスの意義についてどう思われるか?

A4,原水爆を知っていたら、マルクスは武力革命は肯定しなかったろう。
その点は、時代的な制約があり、のちの時代を見たら違うことを言ったと思う。
だが、最近社会主義というのは不評だけれど、私は、人間や社会の向上は、それなしにはありえないと思う。
そういう意味では、現代においても、きわめて現代的な、大切なことと思う。


Q5,今の若者に対して思うことは?

A5,若者の行動に対し若気の至りなどと文句を言わないことが大事、妙な大人にならない、それが協力することにつながるし、大事.


Q6,「神聖喜劇」の主人公の東堂太郎の名前の由来は?

A6,東の国の男、つまり日本男児という意味で名づけた。



Q7,(司会者)最後に、今日来ている方たちに一言

A7,とりたてて、今更特別はないけれど、
お互いに努力して、少しでも世の中を良くしなくちゃならないでしょうね。




(大西先生は、本当に、とても知的で、英語の”noble”という形容詞がぴったりな、本当の教養人というのはこんなにも気高く品があるのだなあと思わせる感じが第一印象だった。
でも、とても飄々と、枯淡な感じもして、端然としながら淡々としてユーモアのセンスも抜群で、本当に素敵な人物だと思った。

イベントが終わったあと、私は最前列にいたので、なんとなく目があって、ありがとうございましたと頭を下げておじぎをしたら、こちらをちゃんと見てとても素敵な笑顔で、会釈してくださった。

その笑顔が本当に素敵な笑顔で、なんというか、本当に、大西先生は菩薩だなぁ、仏だなぁ、と思った。
千載一遇の、拈華微笑のような笑顔だった。
ああいう笑顔のできる、そして、ああいう智慧と慈悲を湛えた目を持った、気高い人になりたいと思った。)