映画 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」を見て

ベンジャミン・バトン 数奇な人生 特別版(2枚組) [DVD]

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映画「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」を見た。
思っていたよりも面白かった。


第一次大戦で息子が戦死した時計職人が、時計の針が逆に動く時計をつくる。
その影響のせいか、その後まもなく、あるところで、老人そっくりのしわくちゃの赤ん坊が生まれる。
その子が主人公のベンジャミンで、母親は産後にすぐに亡くなり、父親は赤ちゃんの容貌にショックを受けて捨てる。
たまたま拾った黒人の女性が、母親代わりとなって育てる。
その子は、子どもなのにほとんど老人のような姿だが、ある少女と友達になる。


ベンジャミンは、成長するごとに、だんだん若返っていく。
一方、少女の方は、美しく成長するが、だんだん年をとっていく。


ありえない話にもかかわらず、なんだかこの映画がしんみりさせられるのは、人生においてタイミングが合うということがいかに稀有なことか。
また、老いや病をひっくるめて人と付き合うという本当の愛がいかに稀有か。
そのことを考えさせられるからではないかと思う。


さらに言えば、時計の針を逆戻りさせたいと思うことは人生にしばしばあるけれど、本当に逆戻りするとそれはそれで大変なことだし、人生のすべてのことは不可逆であるからこそかけがえのない時なのだということなのだろう。


この映画の中では、第一次大戦が冒頭のシーンで語られ、その直後に生れた主人公は第二次大戦にやがて巻き込まれる。
登場人物の一人は、自分の祖父はリンカーンを暗殺したジョン・ブースの知り合いだったことを話す。
たぶん、一次大戦も二次大戦も、そして南北戦争リンカーン暗殺も、なければよかった、できれば時計の針を戻してなかったことにしたいと多くの人が嘆き悲しんだ出来事だったのだろう。
また、そうした大きな歴史上の出来事でなくても、大なり小なり、人にはそうしたことが人生の上にままある。


しかし、それらは、もしそれがなければ今はありえないことだし、そのことがたまたま成り立つためにもいろんな出来事や条件の重なりが必要だったわけで、時計の針を戻せるような出来事でもないのだろう。


そうであればこそ、できうる限り、人はできることを精一杯努めねばならないし、もしやり直したいことがあれば、今からでも行うべきなのだろう。
若さや老いというのは、本当は関係なく、いつからでもいいことなのかもしれない。


この、フィッツジェラルド原作の奇妙な物語が伝えたいことは、きっとそういうことなのだと思う。


物語の中で、自分の娘に、主人公が葉書の中で語りかけるメッセージが良かった。
その娘がそのメッセージを読むのはずっと後のことだったのだけれど、いつ受け取ったとしても、それはそれでその時点から、きっととても大切なことなのだと思う。


日本語訳がちょっとしっくり感じなかったので、自分で英語から訳してみた。


「なりたい自分に今からなることに、遅すぎることなんてない(私の場合には、早すぎることなんてない)。
なりたい自分に今からなろうとすることは、いつからであれ、それを止めるタイムリミットなんてない。
人は変わることもできるし、同じままに止まることもできる。
そのことに決まりなんてない。
自分が物事を最高にすることもできるし、最悪にすることもできる。
君には人生を最高にしていって欲しいと思う。
そして、君には驚くような物事をいっぱい見ていって欲しい。
以前は思ってもみなかったことをいっぱい感じて欲しい。
違うものの見方をする人々に出会って欲しい。
自分が誇りを持った人生を生きて欲しい。
もしそうでないと気付いたならば、すべてのことを初めからやり直して始める強さを持って欲しい。」


It's never too late or, in my case, too early to be whoever you want to be.
There's no time limit, stop whenever you want.
You can change or stay the same, there are no rules to this thing.
We can make the best or the worst of it.
I hope you make the best of it. And I hope you see things that startle you.
I hope you feel things you never felt before.
I hope you meet people with a different point of view.
I hope you live a life you're proud of.
If you find that you're not, I hope you have the strength to start all over again.


日ごろ、我々は年をとるのは嫌だと思うものだけれど、普通に年をとっていくことができることは、案外と、逆に若返ってしまう人よりは、自然で恵まれたことなのかもしれない。
大事なことは、いつからの時点であろうと、そのつど気づいた時に、自分が本当にやるべきことややりたいことを今からやっていくことなのだろう。
おそらくは、そのことをしっかりできていれば、どのような人生であれ、後悔することはないのだと思う。