野口悠紀雄 「日本を破滅から救う経済学」

日本を破滅から救うための経済学

日本を破滅から救うための経済学


今の日本が抱えている問題は、デフレではない。
むしろ、将来のインフレの危険こそが問題である。


物価下落は海外要因によるものである。


この15年間の日本は、いわば「流動性トラップ」にはまりこんでいるため、金融政策は効かない。


諸悪の根源は、デフレではなく、流動性トラップである。


といった、一般的通念とはかなり違う説を、データをもとにガツンと書いてある。


ぜひ多くの人に一度読んで欲しい一冊である。


デフレについての経済運営の基本認識が誤っているため、日本が有効な政策が打てないできたこと。
アメリカは、新興国の工業化をポジティブに使っていること。


移転的支出(子ども手当等)を増やしても、消費は伸びない。


今起こっているのは、法人税税収の激減であり、40年体制税制の崩壊である。


国債はたしかに、国全体の資産は変わらないことになるが、国債で調達した資金を成長分野に投資しないと、結局将来を食いつぶすことになるし、納税の痛みを伴わない国債は放漫財政を招きやすい。


消費税は、インボイスの制度をあらかじめ導入しておかないと、生活必需品への非課税措置もできないし、輸出の際に本来ならば影響がないはずの消費税が悪影響を与えかねない。
インボイスを伴わない日本の消費税は欠陥税制である。


消費税の福祉目的税化は無意味で有害であり、議会の自殺行為である。


政府は円高を有利に使う政策に軸足を据えるべきで、円高を抑えるような為替介入はしないと明言すべきである。


などなど、今の日本に必要な提言がはっきり書かれている。


特にショックなのは、このままいくと2033年に厚生年金は破綻するというシュミレーションが書かれてあることである。


人口増というよりも、賃金上昇や運用利回りを相当高く想定していることが一番問題らしい。


賃金は近年下落傾向にあるぐらいなので、シュミレーションをもうちょっとリアルに修正して、国民にきちんと説明して制度の手直しをするしかないのだろう。


あらためて暗澹たる気分になるが、
野口さんが言うには、保険料率を一割引き上げ20%とし、マクロ経済スライドを物価動向にかかわらず継続すれば、破綻回避できるらしい。


そうした年金改革も今後必要だろう。


決して楽観視できるわけじゃないが、希望の種が日本にないわけでもない。


野口さんは、産業構造の転換を他の著作と同様にこの本でも信念を持って明晰に主張している。
また、教育をアメリカのようにきちんと前面に据えて、大学院や大学の教育のための税制優遇措置を設けるべきで、金融や情報産業などのスペシャリストの育成に全力をそそげば、日本は必ず大丈夫だと述べている。
さらに、人材のグローバリゼーションが日本ではいまだ全く不足しており、人材のグローバリゼーションの必要を説いている。


また、大企業の力が弱まり、価格体系が変わってPCが安価に利用できるようになった今は、起業のためのチャンスでもあることを指摘していた。


物事は考えようで、厳しい情勢だが、うまく状況を良い方向に転じていけば、日本もきっと大丈夫なのかもしれない。
しかし、そのためには、何が今の問題なのかを、国民の多くがきちんと認識し、必要な措置や対策をとっていかねばならないのだろう。