『八識規矩頌』 (玄奘三蔵)
『八識規矩頌』(玄奘三蔵)
「前五識頌」
1. 白文
性境現量通三性、眼耳身三二地居、
遍行別境善十一、中二大八貪嗔癡。 五識同依淨色根、九緣七八好相鄰、
合三離二觀塵世、愚者難分識與根。 變相觀空唯後得、果中猶自不詮真、
圓明初發成無漏、三類分身息苦輪。
2. 書き下し
性境現量三性に通じ、眼耳身三は二地に居す、
遍行別境善十一、中二大八貪嗔癡。 五識は同く淨色根に依り、九縁七八よく相鄰す、
合三離二して塵世を観じ、愚者は識と根とを分つこと難し。 變相して空を観ずるは唯だ後得のみ、果中猶お自ら真を詮ぜず、
圓明初發して無漏と成り、三類分身して苦輪を息む。
3. 現代語訳
前五識は実在の境を直接知覚で捉え、善・悪・無記の三性すべてに通じる。眼・耳・身の三識は欲界と色界の二地にあり、鼻・舌識は欲界のみ。
遍行心所5つ・別境心所5つ・善心所11つが対応し、中随煩悩2つ・大随煩悩8つ・貪・瞋・癡も伴う。 前五識はすべて清浄な感覚器官に依り、九つの縁(根・境など)で働き、第八識・第七識と密接に関連する。
眼・耳・身は三つ合わさって、鼻・舌は二つ離れて塵世を観察するが、愚かな者は識と根の違いを区別できない。 変じた相で空を観じるのは後得智だけで、果位(聖者の境地)でもまだ真如を直接説明しない。
円明の智慧が最初に発すると無漏になり、三種類の化身を現して苦の輪廻を止める。
「第六識頌」
1. 白文
三性三量通三境、三界輪時易可知、
相應心所五十一、善惡臨時別配之。 性界受三恒轉易、根隨信等總相連、
動身發語獨為最、引滿能招業力牽。 發起初心歡喜地、俱生猶自現纏眠、
遠行地後純無漏、觀察圓明照大千。
2. 書き下し
三性三量三境に通じ、三界輪ずる時易く知るべし、
相應心所五十一、善惡臨時に別けて之を配す。 性界受三は恒に轉易し、根隨信等總じて相連なり、
身を動かし語を発するは獨り最たるもの、引滿は能く業力を招きて牽く。 初心を発起して歡喜地、俱生猶お自ら纏眠を現ず、
遠行地の後純に無漏、觀察圓明大千を照らす。
3. 現代語訳
三性(善・悪・無記)・三量(現量・比量・非量)・三境(性境・帯質境・独影境)に通じ、三界を輪廻する時は容易にわかる。
対応する心所は51すべてで、善悪に応じて臨時に配分される。 性・界・受の三つが常に転じ、根随煩悩・信などの心所が総じて連なる。
身を動かし言葉を発するのが最も強く、引業(来世の果報を引く業)・満業(細かな報いを満す業)を招いて業力に引っ張られる。 初心を発して歓喜地(初地)に入ると、俱生の煩悩がまだ現れて潜伏するが、遠行地(第八地)以後には純粋に無漏となり、観察の智慧が円明に輝いて大千世界を照らす。
「第七識頌」
1. 白文
帶質有覆通情本、隨緣執我量為非、
八大遍行別境慧、貪癡我見慢相隨。 恒審思量我相隨、有情日夜鎮昏迷、
四惑八大相應起、六轉呼為染淨依。 極喜初心平等性、無功用行我恒摧、
如來現起他受用、十地菩薩所被機。
2. 書き下し
帶質有覆情の本に通じ、隨緣に我を執りて量を非と為す、
八大遍行別境慧、貪癡我見慢相隨う。 恒に審かに思量して我相隨い、有情は日夜鎮に昏迷す、
四惑八大相應して起り、六轉を呼んで染淨の依と為す。 極喜の初心平等性、無功用行我は恒に摧く、
如來現起して他受用、十地菩薩の所被機。
3. 現代語訳
帯質境(心を縁とする境)を有覆(覆われた性質)で捉え、情の本(我執の根本)に通じる。
随縁で我を執り、認識としては誤りである。
八大心所・遍行心所・別境の慧が対応し、貪・痴・我見・慢が相随う。 常に審察して我を思量し、我相が伴うため、有情は日夜ずっと昏迷する。
四つの煩悩(我痴・我見・我慢・我愛)と八大心所が相応して起き、前六識の転換(染浄の依り所)と呼ばれる。 極喜地(初地)の初心で平等性智が現れ、無功用行(努力せずに自然に)で我執が常に壊される。
如来が他受用身(他者のために現れる身)を現し、十地の菩薩が教えを受ける対象となる。
「第八識頌」
1. 白文
性唯無覆五遍行、界地隨他業力生、
二乘不了因迷執、由此能興論主諍。 浩浩三藏不可窮、渊深七浪境為風、
受薰持種根身器、去後來先作主公。 不動地前才舍藏、金剛道後異熟空、
大圓無垢同時發、普照十方塵剎中。
2. 書き下し
性は唯だ無覆五遍行、界地は他に隨いて業力に生ず、
二乘了せず因りて迷執す、此に由りて能く論主の諍を興す。 浩浩たる三藏窮むる可からず、渊深く七浪境を風と為す、
薰を受けて種を持し根身器、去後來先主公と作る。 不動地の前才に舍藏、金剛道の後異熟空なり、
大圓無垢同時に發し、普く十方塵剎を照らす。
3. 現代語訳
性質はただ無覆(覆われない)で、五つの遍行心所が対応する。
界地(三界の位置)は他(業力)に随って生まれ、二乗(声聞・縁覚)はこれを理解できず、迷執のため論争が起きる。 浩瀚たる三蔵(経・律・論)は尽きることがなく、深淵のように七つの波(前七識)が境を風として起こす。
薫習を受け、種子を持ち、根・身・器(世界)を保持し、死んで去った後にも来て最初に主となる。 不動地(第八地)以前はまだ蔵(種子を保持)し、金剛道(最終の道)以後には異熟(報いの果)が空になる。
大円鏡智が無垢に同時に発し、十方塵刹(無数の世界)を普く照らす。