- 作者: 中沢啓治
- 出版社/メーカー: 汐文社
- 発売日: 1993/04/01
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 88回
- この商品を含むブログ (108件) を見る
一昨日から読み始めて、『はだしのゲン』を全部読み終わった。
恥ずかしながら、私は小さい頃、ところどころは読んだことがあったのだけれど、全巻きちんと読破したのは今回が初めてだった。
アニメの映画は以前見たことがあったし、ドラマも見たことがあって、どちらもすぐれた出来だったが、それらはゲンが子どもの頃で終っていた。
今回全十巻を読んで、中学を卒業したあとぐらいまでのゲンの姿を知ることができて、本当に良かった。
読み終えた感想は、これは本当にすごい作品だと思う。
原爆への痛切な思いを、これほど赤裸々に描き切った作品は、漫画や文学やすべてのジャンルを含めて、それほど多くはないと思う。
原爆が落ちてから何年も経ったあとも、次々と原爆症で命を落としていく登場人物たちを思うと、なんとも胸がつぶれる。
また、ABCCやキャノン機関など、漠然と聞いたことはあったけれど、あんまりよく知らなかったので、これほどひどいものだったのかと読んでいて驚いた。
当時はよく知られていても、今は多くの人が忘れていることがたくさんあるのだろう。
もちろん、その最たるものは、被爆の実状だろう。
原爆への真の怒りと抗議が、全篇を貫いている。
この作品に描かれるそれらの声は、今日、記憶の継承として非常に貴重なものだと思う。
また、『はだしのゲン』は、原爆が投下されるまでのストーリーも非常に貴重だと思う。
ゲンの父親が、戦争に反対する意見を持っているため、ゲンの家族は非国民と呼ばれていじめられる。
その様子は、おそらく当時はしばしばあったことなのだろうけれど、あらためてとても考えさせられるものがあった。
原爆という現象の背後にあった、世の中の仕組みや不条理について、きちんと目を向けているところが、この作品の貴重さの一つなのだと思う。
そして、この作品で何よりも印象的なのは、ゲンのお父さんとゲンの、本当にかっこいい、逞しい姿だと思う。
麦のように生きろ、踏まれても伸びる、麦のように生きろ、というゲンの父の教えと、その教えを忘れずに敗戦後も逞しく生きるゲンの姿は、本当に感動的である。
この作品の最大の魅力は、このゲンの逞しさと生命力にあるのだと思う。
もっと早くにきちんと読んでいれば良かったと思うが、一応この年になってからであっても、いまきちんと全部目を通すことができて本当に良かった。
作者は、本当はこの続編も書く予定だったそうで、下書きもつくっていたという。
もっと続きも読みたかったので、とても残念だ。
いつか誰かが続編を書いてくれないだろうか。
誰かすぐれた漫画家が続編を書いてくれることが願われてならない。
とはいえ、ゲンの願いを受け継いで、ある意味、本当の続編を書いていくのは、読者一人一人の役目なのかもしれない。
そういえば、登場人物の一人の政二の話は、私はたしか、小学生の頃、色がついた絵本のような、はだしのゲンの別冊のような本で読んだ記憶がある。
その時もとても印象的だったが、今回読んでもとても印象的だった。
この政二さんや、その他の多くの登場人物のような人々の、無念の思いや憤りや悲しみを、後世の我々は忘れてはならぬのだろう。
国境を越えて、多くの人々に読み継がれて欲しい不朽の名作だと思う。