井上ひさし 「子どもにつたえる日本国憲法」


この絵本は、井上ひさしさんが、日本国憲法の前文と第九条を、とてもわかりやすい言葉で子供向けに書き直した文章に、いわさきちひろさんが絵をつけたものである。


たとえば、前文の意訳の中では、


「今度の戦で
つらく悲しくみじめな目にあった私たちは
子どもや孫たちと
のびのびとおだやかに生きることが
ほかのなによりも
大切であると信じるようになった」


ということが述べられる。


たしかに、このような思いや願いで戦後は始まったんだろうなぁと、あらためてしみじみと思った。


この井上ひさしさんの憲法前文と九条の意訳は、以下のサイトにも載っている。http://www.toyamav.net/~fc9/sPDF/29-6.pdf


最近は、憲法をとりあえず変えようという主張が政治家にも国民にも浸透しつつあるようである。
その是非は別にして、護憲派だろうと改憲派だろうと、どちらであっても、子どものみならず、ぜひ大人も、この本を一読すべきだと、読んで思った。


というのは、変える前に何が本当に書かれていて、どのような願いに基づいてこの憲法がつくられ維持されてきたか、今の日本の場合、子どものみならず、大人にもどれだけきちんと知っている人がいるか甚だ疑問だからである。


私自身、どこまでわかっていたか、わかっているか。
井上さんのように、身をもってあの時代を生きた人の言葉には、まずは耳を傾けるべきだろう。


著者の井上さんは、この本で、昭和二十年の日本人の男性の平均寿命は23.9歳だったということを述べる。
そして、戦地での戦死者の三分の二は餓死者だったことも述べる。


憲法とは「この国のかたち」。
個人の尊重とは、「この世に生れたひとりひとりが自分であることを尊んで、自分が自分でなくなることをおそれること」。


私たちは、あの時にどのような「この国のかたち」を願ったのか。
そして、今、願っているのか。


そのことをきちんと考えるためには、まずは本当に憲法に何が書かれているのか、わかりやすい言葉に置き換え、明晰に把握することこそが、変えるにしろ変えないにしろ、大切なのだと思う。


井上さん自身は明確に護憲の立場に立つ人であり、そのことはこの本でも包み隠さず率直に語ってある。
そして、なぜそう思うのかも、自身の体験や思いを語っている。


それをそのとおりと思うかどうかは、もちろん各自の自由である。
しかし、賛同するにしろ、拒絶にしろ、部分的に賛成し部分的に修正するにしろ、まずは耳を傾けることが、何事も大切なのだと思う。


ぜひ大人も子どももすぐに読めるので、一度は読んで欲しい本だと思う。