ティク・ナットハン 「小説ブッダ」

ベトナム出身の高僧で、世界的に著名な平和運動の指導者のティク・ナットハンが書いた、ブッダの生涯と教えについての一冊。


小説という形式になっているが、全八十一章のすべての場面やエピソードにきちんとした仏典に基づく根拠がある。


しかも、それらを極めて簡潔に明晰にわかりやすく叙述してある。


難解な仏教の教義についても、本当にわかりやすくかみくだいて、そのエッセンスを書いてくれている。


ブッダの生涯や教えについて知りたい場合、最良の一冊であることは間違いないと思う。


自分の心に平和がなければ、社会を良くすることもできないと気付いたブッダは、若き日に道を求めて出家した。
遍歴や修行ののち、悟りを開いたブッダは、わずか四十五年の間に、大きな感化と影響を当時のインド世界に及ぼした。
愛と理解、気づきと瞑想を日々に実践し、みずからの心に平和と喜びと愛を育むことで、みずからの今とこれからの幸せを開き、社会に貢献すること。
その道をブッダは説き、みずから生きた。
そのことがこの小説にはよく描かれていて、読みながら、たしかに、その道にのみ、少しでもこの世界を良くしていくか細い道があるのかもしれないと思った。


多くのブッダの教えが、簡潔にまとめられていて、読みながら本当に有難く感銘を受けること度々だった。
またしばらくしたら、折々に再三再四読み直してみたいと思う。



以下の箇所は、備忘録として、メモ。


第六十四章「生と死の循環」より 「八大人覚経」


「これは大いなる人が説いた、忘念を克服し解脱に至るためのさまざまな悟りです。


第一の悟りは、すべてのものは無常であり、他から独立した実体(我)はないという悟りです。すべてのものの無常と無我を瞑想することによって、苦しみを脱し、悟りと平和と喜悦に到達することができるのです。


第二の悟りは、欲望が多ければ多いほど苦しみも多いという悟りです。人生におけるすべての苦悩はむさぼりと欲望から生じるのです。


第三の悟りは、欲望を減らした簡素な生活は、平和と喜びと平静をもたらすという悟りです。


第四の悟りは、勤勉な努力(精進)によってのみ解脱に至ることができるという悟りです。怠慢や性欲への耽溺は修行の妨げになります。


第五の悟りは、無知・無明こそがはてしない生死の輪廻の原因だという悟りです。理解と雄弁な言葉の力を育てるために、つねによく聴きよく学びなさい。


第六の悟りは、貧困が憎しみと怒りを生みだすという悟りです。憎しみや怒りは否定的な考えや行動を引き起こすので、悪循環に陥ってしまいます。<道>に帰依する者は布施を実践するとき、敵も味方も平等に扱い、過去の悪行を非難せず、現在害を及ぼす人をも憎まないのです。


第七の悟りは、他者を教え導くためにこの世に生を受けても、俗世にとらわれてはならないという悟りです。出家の修行者は三衣一鉢のみを所有し、つねに簡素に生き、森羅万象を慈悲の目で見るのです。


第八の悟りは、修行は自分ひとりのために行うものではなく、生きとし生けるものすべてを悟りの門へ導くためにいのちをかけるものだ、という悟りです。


比丘たちよ、これが大いなる人の八つの悟りの教えです。生あるものはすべて、この八つの悟りによって光明を得るでしょう。生涯どこで暮そうとも、この八つの悟りによって心をひらき、人々に教え、すべてのものが悟りと解脱に至る道を探してください」



第七十五章 「幸せの涙」より


「あなた方が在家の十戒を守って日々を暮らすならば、真の幸福がこの世で、いまこの場所で実現するでしょう。」


一、徳のある人とつきあい、堕落の道をさける。
二、修行にふさわしい環境に住み、よい人格をつくる。
三、<法>の教えと戒律、そして自分のなりわいをさらに深く知る。
四、両親、妻や夫、子どもなど、家族の世話をする時間を持つ。
五、他の人たちと、時間やものや幸せをわかちあう。
六、徳を高める努力をし、酒や賭けごとを避ける。
七、謙譲・感謝・質素な生活を心がける。
八、<法>の教えを学習するために比丘たちと接する機会を持つ。
九、四聖諦に基づく生活をする。
十、悲しみや心配を手放す瞑想法を学ぶ。



第七十八章 「二千のサフラン色の法衣」より


「『繁栄のための七つの方策』


一、教えを学び意見を交換するためにしばしば会合をひらく
二、協力と団結の精神で集会をもつ
三、決められた規則・法律を遵守する
四、徳と経験を積んだ指導者を敬い従う
五、欲望に惑わされて強姦や暴力的犯罪を犯さない
六、祖先の霊域を守る
七、解脱の師を崇める」





小説ブッダ―いにしえの道、白い雲

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