志賀直哉 「暗夜行路」

暗夜行路 (新潮文庫)

暗夜行路 (新潮文庫)

志賀直哉の『暗夜行路』を三カ月ぐらいかけて読み終わった。
去年の年末の大掃除の時に本棚で見つけて、それからちょっとずつ読んだ。
高校の時に買って、最初のあたりでどこが面白いのかさっぱりわからず読むのをやめてしまっていたのだが、あれから二十年経って読みだすと、とても面白かった。

たぶん、あらすじだけ言っても、面白さが全然わからないし、何か的外れなことしか言えなくなる、不思議な小説と思う。
細部が何か不思議な豊かさに満ちている。

文庫の解説には、「強い意志で幸せをつかもうとする主人公」みたいなことが書いてあるが、正直、私には全然そうは思えなかった。
主人公はどこかのほほんとした人の良さを持ちながらも、かなり適当な、そしてあんまり強くもない人間に思える。
ただ、主人公のもろもろの心情は、なんとなく、「よくわかるなぁ」という気がした。

この面白さというのは、たぶん、十代ぐらいではあんまりわからなくて、三十代以降ぐらいに面白いと感じるものなのかもなぁ。

あらすじに関わることで言えば、ラストのあたりのことは、たぶん、人によっていろんな受けとめ方があるんだろうけれど、私は、あの大山の山の影というのは、人間の生活に神の愛が影を落とし見守っている、という、そういうことの暗喩に思えた。
また、主人公は、人を赦せない気持ちや憎む気持ちが、実はそれもまた愛しているからこそ生じる感情だと気付いたので、ラストのあたりの表情や態度になったのではないかと思えた。

またいつか、だいぶ時が経ってから、ゆっくり読み直してみたいものである。