ある本のこと

昨夜、知人のAさんのお父さんのMさんががもう三十年ほど前に書かれた本を読んで、とても感動した。


AさんにはM子さんという重度の知的障害を抱えた妹さんがおられて、そのM子さんとの思い出をAさんのお父さんが記した本なのだけれど、愛とは何であるかということを教わる、深い家族の愛情を描いた本だった。


Aさん御夫婦とはよくお会いする機会があるけれど、あの優しさの背景にはこういう日々があったんだなぁとあらためて思った。


Aさんは年頃になって何度かお見合いをしても、いつも妹さんのことになるとそこで縁談が止まってしまうことが続いていたそうだが、Aさんの御主人は、その話を聴いてもすべてよくわかった上で結婚して欲しいとおっしゃって、新婚旅行は当時M子さんが親元から離れて入っておられる施設に会いに行った、という話を聴いて、Aさんの御主人は本当に立派な方だなぁとあらためて思った。


Aさん御夫婦は本当にいつも優しくてにこにこした老夫婦で、いつも幸せそうに見えるけれど、人間が本当に幸せであることの背後には、きっと多くの大変な思いや苦しみや覚悟や本当の愛情というものがあればこそなんだろうなぁとあらためて思った。


しいのみ学園の初期の頃の様子もわかって、興味深かった。
Aさんのお父さんはもうだいぶ前に亡くなられているのだけれど、その奥さんのAさんのお母様はいまも百六歳を過ぎて御健在で、先日私もお会いした。


しいのみ学園の磤地三郎さんも長寿だったし、Aさんのお母様も稀なほどの長寿だけれど、きっと障害を抱えたお子さんたちの世話をしたりすることは、なんと言えばいいのだろか、ひょっとしたら人間にとって本当に大切な多くの知恵や愛を人に鍛えて授けて、長寿にもつながるような、そういう働きもあるのかなぁとも思った。


効率優先や競争ばかりが大事にされる今の世の中だけれど、それとは全然別の尺度や大切なことがあるということを教わる、貴重な本だったと思う。