
- 作者: フィリス=ピディングトン,小林与志,一関春枝
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1982/06
- メディア: 単行本
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私が小さい頃にあっていた世界名作劇場のアニメ『南の虹のルーシー』の原作。
ふとなつかしくなって読んでみたが、なかなか面白かった。
アニメと異なり、主人公は別にルーシーというわけではなく、どちらかというと姉のケイトの方が主人公っぽい。
ルーシーたちの一家・ポップル家は、イギリスからオーストラリアに新天地を求めて移住してくる。
しかし、オーストラリアの生活は決してラクではなく、苦労も多い。
移民船の中で一人赤ちゃんが亡くなってしまうし、物語の後半の方でもう一人小さな弟が不慮の事故で死んでしまう。
たぶん、アニメではそれらのエピソードはなかった気がする。
お父さんも、移住する移動だけでとても大変だった上、アデレードにやって来てからも、思っていたような農場がなかなか手に入らず、不本意な仕事をせざるを得ず、いらいらがつのる。
しかし、そんな中でも、ルーシーとケイトたちは、いつも動物や昆虫などにとても興味を示し、他愛無いことに熱中したり感動して、楽しそうに遊んで暮らす。
家の手伝いに辟易しながら、常に遊びの楽しみに夢中になる姿は、子どもってのはこんなにも他愛無いことによろこびを見いだせるんだなぁと、ある種のまぶしさを感じながら読ませられた。
お父さんは、アニメ版の記憶では、いろんな大工仕事ができるいいお父さんだったイメージがあったのだけれど、原作はたしかにそういう面もあるが、わりとうざくて厳しい。
聖書の暗記も子どもたちにさせるし、いろいろ厳しくあれこれ言う。
どこの家でも、父親というものは、わりとうざくてうるさいものなのかもしれない。
子どもの目から見れば嫌な場合もあるが、それも愛があればこそだし、しっかりと規範を示すのは親の大切な仕事でもあるのだろう。
アニメではルーシーの記憶喪失騒動があるが、原作にはそのエピソードは一切ない。
しかし、ルーシーがきっかけとなって、お父さんとお金持ちの人が知り合いになり、働きながら収穫物で返済することで農場を取得できるという好条件でとても良い農場に移り住むことができることになる。
人生、いつ急に運が向くかわからないので、家族で支え合って大変な時を乗り越えることが大切ということなのだろう。
この本を読むと、いかにオーストラリアの開拓や移民が大変だったか、はじめて思い知らされる気がした。
と同時に、子どもは、そんな中にも、オーストラリアの自然や動植物に限りない好奇心や遊びの喜びを見出だすことができていたのかもしれない。
あと、興味深かったのは、大人たちは「黒人」、つまりオーストラリアの原住民のアボリジニーたちにわりと冷淡で警戒心しか持たないのに対し、子どもたちは大いに興味を示し、何の偏見もなく一緒に遊ぼうとする様子である。
また、この作品には、原住民たちの優しさもよく描かれている。
子どもというのは、本当に、よく遊ぶ存在であり、「越境」を簡単にできる、偏見にまだ染まっていない存在なのだろう。
正直に言えば、他の世界名作に比べて、やや文体やストーリー展開が必ずしも名作っぽくないところもあるのだけれど、そこもオーストラリアらしいのどかさやおおらかさということで、それもまた御愛嬌と思う。
今はなかなか手に入らない本のようだが、アニメともども、長く語り継がれ読み継がれて欲しい渋い名作と思う。