アニメ 『わたしのアンネット』 全四十八話


先日、その原作を読んだこともあり、ついついなつかしくなって、小さい頃見ていたアニメ『わたしのアンネット』の全四十八話を見た。
たぶん、三十年ぶりぐらいである。


ところどころは覚えていたものの、ほとんど忘れていたし、当時見た頃はまだ幼くてよく理解できていなかったところもあったと思うが、今見ると、本当に良い作品である。
原作を読んだのでよくわかるのだけれど、原作にはないエピソードやシーンがたくさん盛り込まれている。
家なき子』等々、原作を膨らませて原作を超えるものをジャパニメーションはしばしばつくってきたが、『わたしのアンネット』もその一つだと思う。


アニメを見ていてあらためて今回思ったのは、主人公のアンネットとルシエンを囲む大人たちが、本当に「大人」だなぁということだった。


アンネットの弟のダニーが、ルシエンのせいで崖から落ちて足を大けがし、一生歩けないと言われた後、アンネットはルシエンへの憎しみでいっぱいになるが、アンネットとダニーの父のピエールは、今まで通りルシエンやルシエンの家族たちに接する。
原作でも、ピエールが父親のいないルシエンの家のために草刈りの作業をダニーの事故のあともしてあげるシーンがさらっと描かれているが、アニメだともっと丹念に、あまり多くを語るわけではないけれど、ルシエンを見守るピエールの優しさがよく描かれていた。
そしてもちろん、自分の子どもであるダニーとアンネットにそそぐピエールの愛情は、まさに父親の模範と思えた。


また、アンネットと同居している大叔母のクロードおばあさんも、折々に智慧の言葉を述べるおばあさんで、ダニーの足が二度と歩けないということになった時に、泣き崩れて謝るルシエンの母親に対し、「誰のせいでもなく、ダニーもルシエンも運が悪かっただけです、すべては神さまのおぼしめしです」とルシエンの母をいたわるシーンにはとても胸を打たれた。
昨今の日本では、自分の家の子や孫が大けがをさせられた時に、そのように言える大人がどれだけいるだろうか。
他にも、「日が暮れるあとにまでその日の怒りを持ちこしてはならない。」というクロードおばあさんの言葉は心に残るものがあった。
原作でも折々に聖書の言葉を引用して、すごい智慧の言葉を述べるクロードおばあさんだったが、年をとった時はこのような叡智の持ち主になりたいものである。
「イエスさまが深い愛をお持ちになってお前を守ってくださったように、お前も深い愛で応えなければならないよ。そのことを忘れてはいけないよ。」という三十八話でのセリフも、珠玉の言葉と思う。


森のはずれに一人住んでいて、ルシエンに木彫りを教えてくれたペギンじいさんも、折々に実に良いセリフを述べていた。
ルシエンがなんとかアンネットと仲直りしたいと努力している姿に対し、「お前の心の中にはすでに神さまが宿っておられる。その優しい心を忘れるんじゃないぞ。」と励ますところ。
また、何度も挫けそうになるルシエンに、「次の機会にもう一回やってみるんだ。何度でも。木彫りをつくり続けるんだ。その時、幸せがお前の上に宿る。」と励ますところも、印象的だった。
「償いとは、役に立つこと」という言葉も、印象的だった。
「物を見る目を養え。物を見る目とは、物事の中心を見る目のことだ。」というセリフも、人生の万事に大切なことに思えた。


アンネットとルシエンが、最後には大きな成長を遂げていくことができたのも、周囲のこうした素晴らしい大人の支えや愛情があればこそだったというのが、今回アニメを見直して、しみじみ感じたことだった。
ピエールもクロードおばあさんもペギンじいさんも、ごく普通の貧しい庶民だけれど、昔のスイスにはこういう深い智慧と愛を持った大人が多々いたのだろうか。
自分もまた、そのような大人になりたいものである。


アニメには、ロシニエール村やモントルーローザンヌの町の景色が映るが、ネットで検索すると、本当にアニメの景色と全く同じ美しい景色がそれらの場所に実在しているようである。
アニメの場面と写真とで検証してあるサイトもあり、あの教会や広場や橋が本当に実在するのには深い感動を覚えた。
私もいつかロシニエール村に行ってみたいものである。


原作はわりと聖書の言葉やキリスト教的な要素が強かったが、アニメだとだいぶその点はうすめてあったけれど、それでもよく注意してみていると、ちゃんと細部に原作のメッセージや聖書の言葉も織り込んであるのが今回見ていてはじめてわかった。
ヨハネ黙示録三章二十節やヨハネの第一の手紙のメッセージが、ちゃんとアニメでも描かれていた。
小さい頃見たはずだが、さっぱり覚えてなかったが、どこか無意識には残っていたのかもしれない。
本当に大事なことだとあらためて思う。


あと、最終回で、ニコラス先生が、勇気と思いやりについて話しているところは、なんとなく少しだけ覚えていた。
そのセリフというのは、「私はアンネットとルシエンの勇気を尊敬する。人を信じる勇気、人を愛する勇気を二人は教えてくれた。そしてみんなはくじけそうになった二人をじっと見守り続けた。そこには思いやりという勇気があったと思う。この学校を卒業したらみんなの進む道はそれぞれ違ってくる。上の学校へ進む者、家の手伝いをする者、いろいろだ。だが、それぞれ道は違っても勇気を忘れずに思いやりのある立派な人間になってもらいたいと思う。最後に私はみんなにありがとうを言いたい。ありがとう勇気ある子どもたち。」という言葉だった。
「勇気を忘れずに思いやりのある立派な人間になる」ことは、大人になっても忘れないでいたいものである。


世界名作劇場は、本当に良い名作をアニメで伝えてくれていたなぁと、今回あらためてしみじみ思う。
今や未来の子どもたちにも、こういう良い作品が伝えられていって欲しいものだ。
そして、とかく未成熟な心ない大人が増えてしまった現代日本においては、大人こそが、世界名作劇場をしっかりと見て、その中の「大人」を見習うべきとも思う。