- 作者: マロ,Hector Malot,福永武彦,大久保輝臣
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1993/04
- メディア: 文庫
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『家なき子』は、私が小学生の頃、再放送のアニメで毎朝見た記憶がある。
私が生れた頃にできたかなり古いアニメだったが、とてもよくできていて、幼心に非常に強い印象と感動を覚えたものだった。
ふとなつかしくなり、原作はまだ読んだことがなかったので、この本を読んでみた。
途中、なつかしくて、しばしば心震える思いがした。
幼い頃の記憶力というのは大したもので、レミやビタリスはもちろん、カピ、ドルチェ、ゼルビーノ、ジョリクールといった犬や猿たちの名前、ビタリスの本名がカルロ・バルザーニだということや、御世話になったアキャン一家、白鳥号の名前などもよく覚えていてなつかしかった。
ただ、アニメ版とところどころ違うところや、どうも私が覚えてない忘れてしまっていたことなどもあり、あらためてとても興味深く読んだ。
福永武彦による訳文もとても読みやすくて、本当に良い一冊だった。
『家なき子』の魅力は、思うに、大きく三つあるのではないかと思う。
ひとつは、師匠であるビタリスの、本当の優しさと厳しさと、老賢者のような生き方だと思う。
「教えることは、同時に自分が教えられることでもある。」というビタリスの言葉は、本当にそうだなぁとあらためて深い感銘を受けた。
旅芸人の境涯であっても、決して誇りを失わず、レミや犬たちにも本当の愛情を持って接するビタリスは、小さい頃アニメで見た時もとても感動し、自分の魂の師のように思えたものだが、今回読み直してあらためて思えた。
作中、ビタリスの墓がモンパルナスに建てられたことが記されていて、もちろんフィクションなので実際にあるわけではないのだけれど、モンパルナスの墓地は私も旅の途中でぶらぶら歩いたことがあったので、あの中にビタリスの墓があったのか感慨無量なものがあった。
ふたつめは、そうしたビタリスの影響を大きく受けながら、しっかりと成長していく主人公の少年・レミの健気な姿である。
注意深く、素直で、いろんな逆境や困難にもめげずに挫けずに、ビタリスが教えてくれた人間としての誇りや筋を通すことを忘れずに生きていくレミの姿は、小さい頃も感銘深かったが、あらためて読み直して感動させられるものがあった。
フランスやイギリスを子どもの足で旅し続けるその逞しさは、読者に対して、その読者が大人であっても、あればこそ、大きな勇気を与えてくれるものだと思う。
みっつめは、親友のマチアや、アキャン一家の人々や、バルブランママたちの、心の優しさである。
旅芸人に対する行く先々の、どちらかといえばほとんどの人の無関心さや冷たさを考えると、たまに出遇う人々の優しさは、本当に読んでいる我々の心にもしみるものがある。
特に、後半の方のマチアの活躍は目覚ましいものがあるし、持つべきものは友であるし、またそのような友を持つためには、レミのように要所要所で、自分のパンを割いて渡し、自分の利害よりも友情を大切にする心を持ってこそなのだろうとあらためて思った。
作中、ビタリスの好んだ言葉で、のちにレミもしばしば言う、「前へ」(En Avant!!) というセリフがある。
これも、なんだか元気が出てくる、良い言葉だと思う。
児童文学というのは、子どもの時にも魂の糧となるが、大人になってまた再度巡り合った時にも、あらためて魂の糧となるものだと思う。
特に、大人になると、いろんな勇気や力や希望を失いがちになりそうな時に、こうした児童文学が、どれほどの慰めと励ましを与えてくれるかはわからない。
参考HP めちゃくちゃ熱くアニメ版家なき子について語ってありすごい。
http://www.kanazawa-bidai.ac.jp/~hangyo/naisei/remi.htm