
- 作者: 内村鑑三
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1982/10
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この巻には内村鑑三の『ロマ書の研究』が収録されている。
新約聖書の中のロマ書、つまりパウロの『ローマの信徒への手紙』について、内村鑑三が解説している本なのだけれど、本当にすごかった。
ロマ書はもちろん以前何度か読んだことがあったのだけれど、この内村の解説書を読んで、はじめて目からウロコが落ちた気がする。
ロマ書は難解で、聖書を全部読んだ時に最も難しいという印象を私は受けた。
実際そうなのだろうけれど、内村の解説のおかげで、本当に、はじめてその素晴らしさがようやく少しわかってきた気がする。
ロマ書は聖書の肝と言っても良く、これがわかれば、キリスト教のエッセンスがわかるのだろう。
逆に、ロマ書がわからないと、なかなかキリスト教というのはわからないのだと思う。
今までいかに自分がキリスト教をわかっていなかったかがわかった。
ともかく、すごい本である。
第一次世界大戦の少し後、今から九十年以上前に書かれた本だが、おそらくロマ書の解説書としては今でも最高峰ではないかと思う。
文献学的にはその後多少の進歩があったかもしれないが、その解釈や受けとめの深みにおいては、おそらく欧米にもめったにないものだろう。
かれこれ十二、三年前に、内村鑑三についての本を読んでいて、ロマ書の研究を読みたいと思ったことがあったが、あっという間に時が流れてしまって今に至ってやっと読めた。
その時に、あるいはもっと早く読んでいれば、と思うが、人はふさわしい時に読むのかもしれない。
今読み上げることができて本当に良かった。
律法の深さや大切さがある程度わかってからでないと、逆説的なことだが、ロマ書のすごさはわからないのかもしれない。
パウロはまさに、自分自身の実存を賭けて、ロマ書を書いたのだとあらためて思った。
それにしても、ロマ書は、パウロがローマの信徒へ当てて書いた手紙なのだけれど、誰かに向かって書いた手紙が世の中を変える書物になるということは、パウロのロマ書の他にはあったのだろうか。
書簡がそのまま聖典に入るというのは、考えてみればすごいことである。
それぐらいの意気込みを持って、本当は誰かにあてて手紙なり文章なり論文なり書くべきかもしれない。
キリストの十字架の贖いということの意味が、この本のおかげで、やっと自分にも少しわかる手がかりがつかめた気がする。
「聖書は永久変らざる書である。他の書はすたれても聖書だけは廃らない。然り、他の書は悉く廃りて聖書だけが残るのである。聖書は我らの学ぶべき唯一の書である。」
(内村鑑三『ロマ書の研究』全集二十六巻199頁)
この本も、世の中には賛否両論巻き起こしそうだし、この言葉だけ切り取れば誤解を招きそうだが、これぐらいの真剣さとひたむきさがあればこそ、これほど命をかけた解説書を内村は書くことができたのだろうなぁととても胸打たれた。
キリスト教に関心がある人、あるいはキリスト教に限らず宗教に関心のある人は、一度は読むことをお勧めしたい一冊である。
(なお、今は便利な世の中で、WEB上でもこの内村の「ロマ書の研究」を全文読むことができる。)
http://www.h5.dion.ne.jp/~biblroom/text/U_Rom_idx.htm