島崎藤村 「藤村詩抄」

藤村詩抄 (岩波文庫)

藤村詩抄 (岩波文庫)


高校生の頃、というから、もう早いもので、十数年以上前、藤村の詩を読んで、ところどころとても好きだったことがある。


とはいえ、長い間読んでなかったので、好きな詩のタイトルすら忘れていた。


今日、ふと読みたくなり、この『藤村詩抄』を読んでいたら、「林の歌」というタイトルの詩だったとわかった。


わりと長い詩なのだけれど、その中の一部分。


  「山精


  ひとにしられぬ
  たのしみの
  ふかきはやしを
  たれかしる


  ひとにしられぬ
  はるのひの
  かすみのおくを
  たれかしる


   木精


  はなのむらさき
  はのみどり
  うらわかぐさの
  のべのいと


  たくみをつくす
  大機(おおはた)の
  梭(おさ)のはやしに
  きたれかし


   山精


  かのもえいづる
  くさをふみ
  かのわきいづる
  みづをのみ


  かのあたらしき
  はなにゑひ
  はるのおもひの
  なからずや


   木精


  ふるきころもを
  ぬぎすてて
  はるのかすみを
  まとへかし


  なくうぐひすの
  ねにいでて
  ふかきはやしに
  うたへかし」


なんだか、大和言葉で、音もリズミカルで楽しく、良い詩だとあらためて思う。


その他、「白磁花瓶賦」や「門田にいでて」「めぐり逢う君やいくたび」「ああさなり君のごとくに」「ふと目はさめぬ」などの詩の数々は、すばらしいと思った。


最近、疲れて、心も枯れ果てた気がしていたが、そんな時に、林の奥の清らかな小川のように、藤村の詩は人に優しさや雅やかな心を取り戻させてくれると思う。


また、時折、繰り返し読みたいものだと思う。