ヨヘベッド・セガル 「ユダヤ賢者の教え 第一巻」

ユダヤ賢者の教え〈1〉 (ミルトス双書)

ユダヤ賢者の教え〈1〉 (ミルトス双書)


すばらしい本だった。
タルムードなどに伝わるさまざまな説話をわかりやすくまとめてある。
ユダヤ人の知恵のエッセンスが凝縮されているすばらしい物語集である。


どの物語も素晴らしかったが、特に印象的だったのは、ラビ・アキバの物語。
ラビ・アキバは、ある時に、ロウソク一本と鶏とロバだけを連れて旅に出た。
鶏は朝の目覚まし、ロバは荷物を運んだり疲れた時に乗るため、ロウソクは夜にも聖書を読むためだった。


ある町に辿りついた時に、一晩宿を貸してくれるように頼んだが、どの家からも断られてしまった。
ラビ・アキバは、人々の冷たい仕打ちに腹を立てることもなく、「神のなさることはすべて良いことだ。」と言い、町からやや離れた丘で、野宿することにした。


そして、丘の上でロウソクに火をつけて、聖書を読もうとしたら、突然ライオンが現れてロバを食べてしまい、猫が現れて鶏を食べてしまった。
そのうえ、強い風が吹いて、ロウソクの火が消えてしまった。
それでも、「神のなさることはすべて良いことだ。」とラビ・アキバは言って、静かに落ち着いていた。


すると、遠くの方で悲鳴声があがり、やがて近くの道をがちゃがちゃと音を立てながら多くの人が過ぎ去っていった。
あとでわかったのは、敵の軍隊が町を襲い、人々は殺されるか捕虜になった。
道を通る音は、敵の軍勢の足音だった。


もしロウソクの火がついたままだったら、また、鶏やロバがいて鳴き声をあげれば、ラビ・アキバの居場所がわかり、同じように殺されるか捕虜になったことだろう。


「神のなさることはすべて良いことだ。」とつぶやいて、またラビ・アキバは旅に出た。


という話だった。


このラビ・アキバの物語の他にも、安息日の前だが人助けをした人のために、神が日没を遅らせた物語や、さまざまな親孝行や誠実な人々の物語もとてもためになり、感心させられた。


片足一本で立っている間にかいつまんでトーラーの教えを教えてくれと頼む人に対し、


「あなたがいやだと思うことを、あなたの友にしてはならない。それが、トーラー(律法)の教えのすべてです。」


とラビ・ヒレルが言ったという話も心に残った。


かなり年をとってから猛烈にトーラーの勉強を始めて立派なラビになったラビ・エリエゼルの話や、お金がないために屋根の窓にのぼって雪に降られながらシナゴーグの中のトーラーの授業を聴いて勉強したラビ・ヒレルの話もとても心に残った。


「命を欲するならば、悪い言葉から身を守りなさい。」という聖書の一節こそ命を与える妙薬だという説話も面白かった。


ユダヤ人はこれらの物語を小さい頃から聴いて育つそうだが、そうであればあれほど賢く優秀な人材が輩出するのもよくわかる気がする。


多くの人にお勧めしたい、すばらしい古代ユダヤの説話集である。