ジャックリーン・ウッドソン 「わたしは、わたし」

わたしは、わたし (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)

わたしは、わたし (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)


児童文学のはずなのに、とても重いテーマに真っ向からとりくんである作品だった。

読み終わると、さわやかな風が心に吹く、とても良い本だった。

主人公はもうすぐ十三歳の黒人の少女。
警察官の父と教師の母、時にはケンカもするが仲の良い姉と、何不自由なく幸せに暮らしていた。

しかし、それがある日突然、全く変化してしまう。

父が職務中、同僚の白人の警察官が、何の落ち度もない、両手を手に挙げて従順にこちらの警告に立ち止まって応じていた無実の黒人の少年を目の前で射殺したのを目撃したからだ。

今まで同僚だった人々は、主人公の父親が、その状況を裁判であるがままに証言しようとすることを知り、はじめはなんとか口止めしようとし、あとからは殺害予告の脅迫までしてくる。

アメリカは、命の危険のある法廷証言者を保護するシステムがあるそうで、主人公の一家は名前も変えて、遠い街に引っ越す。

今までの友人たちや住み慣れた家とも突然離れ、主人公は戸惑うばかり。

そのうえ、主人公のお母さんはショックのあまり、新興宗教にのめりこみ、その新興宗教の話ばかりしだす。

お父さんは、同僚が牢獄に入れられたことや、長年働いてきた警察官の仕事を失ったことなどから何もせずにずっと家の中で過ごし、やがて自殺未遂まで起こす。

姉さんは、家族の状況も引っ越し先も嫌なので、一人で黙って猛勉強し、離れたところにある大学に飛び級奨学金つきで入学を認められ、やがて家を出ていく。

そんな中、はじめは学校に友達もおらず、どうしてこんな目にあわけなければいけないのかとばかり思っていた主人公。

しかし、時が経つうちに、学校にはじめは嫌なやつと思っていた同級生が、障害者の姉さんがいることも知り、次第に仲良くなる。
陸上の部活をはじめ、そこによろこびや居場所を見つけるようになる。

時とともに、母親をあるがままに受け入れながら、自分は自分で母の言うことには適当な距離を置き、父親も許していたわるようになり、姉には姉が自分の道をゆくことを快く送り出せるように成長していく。

アメリカの児童文学ってのは、すごいもんだなぁと思った。
良い作品だった。