- 作者: 谷真介,吉崎正巳
- 出版社/メーカー: 女子パウロ会
- 発売日: 1981/03
- メディア: 単行本
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とても良い絵本だった。
天草地方に伝わる民話だそうである。
ある時、畑を耕し、そばの種を蒔いていた老夫婦のところに、十人ぐらいの人々がやって来て、どこか逃げてかくれる場所を教えて欲しいと切羽詰まった様子で頼んできた。
老夫婦は、わけをたずねると、彼らは切支丹だと言う。
老夫婦は、崖の下に洞窟がいくつかあって、そこに隠れると良いと言う。
人々は感謝しつつ、役人がもし追いかけてきたら、嘘を言ったり、ましてやそれがばれた時には御二人にご迷惑をおかけするでしょうから、どうぞ正直に役人に尋ねられたことには答えてください、と言って逃げていった。
間もなく、馬に乗った役人たちがやって来て、老夫婦にここに切支丹たちが逃げてやってきただろう、いつ来たか、どこに行ったか、と尋ねた。
嘘をつこうにも、畑にはたくさんの先ほどの人々の足跡が残ってしまっているし、恐ろしくて、老夫婦は、はい、さきほど来ました、そばの種を蒔いていたら十人ぐらいの人々が来ました、向こうの方に行きました、と指で指した。
すると、驚くことに、ついさっき蒔いたはずのそばの種が、一面の白い花を咲かせていて、人々の足跡をかくしていた。
役人たちは、そばの種を蒔いた頃というなら、もう一ヶ月か二ヶ月前になるだろう、向こうの方角ならば、もう海を渡って向こうの島に逃げてしまったに違いない、と言ってまた立ち去っていった。
役人たちが立ち去ると、さきほどは一面に咲いていたそばの白い花が、忽然と消えていた。
老夫婦は驚き、きっと逃げて行った人々の足跡をかくすために、天が白い花を一時的に咲かせてくれたのだろう、なんと優しいすごい天の神様であろうか、と感動した、という話である。
絵本では、この十人の逃げていく人々の中に、異人の宣教師もいたというから、おそらく江戸初期の頃の話と思う。
三百年間鎖国の中で、このような物語がひそかに語り継がれたというところに、なんとも胸を打たれる気がする。