絵本 「ぼくが一番望むこと」

ぼくが一番望むこと

ぼくが一番望むこと


のちに、黒人のための大学をつくり、それまで技術がなくて低賃金労働ばかりに甘んじていた黒人に、はじめて技術を身につけ中間層になるための道を大きく開いた、アメリカの黒人の歴史では有名なブッカー・ワシントンという教育者がいる。


この絵本は、そのブッカー・ワシントンの幼い頃を描いている。


ちょうど南北戦争が終わった頃。


岩塩の精製所で朝から晩まで働く黒人たち。
その中のある家族に、ブッカー・ワシントンは生まれ育った。


ちょうど九歳の頃。


どうしても文字が読めるようになりたいと思い始める。


親にそのことを言うと、両親ともに字は読めないが、一冊の青い背表紙の綴り方の教科書を持っていて、「文字は歌のように音になるものだ」と言ってブッカー・ワシントンに渡してくれる。


黒人の中に、一人だけ文字を読める大人がいて、以前新聞を皆に読んでくれているところを見たことがあった。
その人を探して、文字を教えてくれるように頼むと、快く応じてくれて、ブッカーという苗字の書き方をはじめて教えてくれる。


朝から晩まで岩塩を精製し、樽につめる仕事をし、足には塩がつきささる毎日だけれど、ブッカー・ワシントンはせっせと文字を学び、やがて多くの本を読み、立派な教育者になっていく。


という物語。


ブッカー・ワシントンの演説は、岩波文庫の『アメリカの黒人演説集』に収録されていて、とても感銘を受ける素晴らしいものだった。
そのような名演説を将来行うことができるための萌芽は、小さい頃のこのような願いや地道な努力だったのだと感銘深く読んだ。


今の日本ではごく当たり前の、文字を読めるということが、かつてはめったにない稀な人々もおり、心から願ってやっとかなうということもあった。
今の日本では忘れがちな、そのことの輝きや光みたいなものを、あらためて感じさせられる一冊だった。