絵本 「アメリカ海岸地図を作った男たち」

アメリカ海岸地図を作った男たち

アメリカ海岸地図を作った男たち




これはすごい絵本だった。
19世紀半ば、南北戦争の少し前の時代。
ゴールドラッシュにより、急にサンフランシスコなどの西部に人が集まり始めた。
だが、正確な地図が一切存在せず、杜撰な知識と道案内により、海難事故が相次いでいた。


そこで、アメリカ沿岸測地測量局は、ジョージ・デイビッドソンに正確な海岸の測量図をつくることを命じる。
デイビッドソンは、ジェイムズ・ローソンらと、ニューヨークから一カ月以上かかってサンフランシスコに到着。
そこから五年以上の歳月をかけて、地道に西海岸の測量に努力し続けた。


重い機材を担ぎ、岬に登り、強風や嵐の日には耐えながら、測量の毎日を送った。
夜は天文を観測し、望遠鏡越しに星の位置とその時間をつぶさにリストアップし、グリニッジ天文台でつくられた表と比較して、今いるコンセプション岬の緯度と経度を割りだし、地球上のどの位置に今いるのかを緻密な計算で明らかにした。


舟がしょっちゅう座礁する砂州を越え、インディアンの襲撃やゴールドラッシュで一角千金だけを夢見るたちの悪い白人の反乱の危険も顧みず、安い給料で黙々と測量を続け、リューマチにもかかりながらついに測量をし遂げたデイビッドソンらの労苦と苦闘には、深い感動を覚えた。


デイビッドソンらのスケッチやメモはワシントンにある沿岸測地測量局の本部に送られ、そこで精緻な銅版印刷で出版された。
アメリカを代表する画家のジェームズ・マクニール・ウイスラーは、若い時にこの作業に携わり、海岸の風景のエッチングを学んだそうである。


デイビッドソンが出版した『沿岸航路案内書』は、「デイビッドソンのバイブル」と呼ばれて、多くの人々の安全な航海や旅に大事な指針となったそうである。


晩年、デイビッドソンは四十五年間もまじめに勤務してきた測地測量局から突然一方的に解雇されたそうだが、その後は私費で測量を続け、のちには評価されて大学教授になったそうである。
八十六才で亡くなった時は、何百人もの人がその死を惜しんだという。


世の中には、政治家は軍人ほどは目立たないが、本当の英雄というものがいるものだと思う。
科学が発達した今日では、簡単に衛星写真などで正確な地形がわかるが、当時はどれほど地図をつくるのが大変だったか。
それらのことを考えさせてくれる、とても良い一冊だった。