絵本 「東洋おじさんのカメラ 写真家・宮武東洋と戦時下の在米日系人たち」

東洋おじさんのカメラ―写真家・宮武東洋と戦時下の在米日系人たち

東洋おじさんのカメラ―写真家・宮武東洋と戦時下の在米日系人たち


1942年、飼い主に捨てられた猫が、山奥で、不思議な建物の中に迷い込む。
そこは、マンザナ収容所。
日系人を強制収容するために建てられた、アメリカの山奥の一角だった。


猫はミュウと名づけられ、宮武東洋というおじさんにかわいがられる。
宮武東洋は実在の人物で、戦争が始まる前はアメリカでも有名な写真家だった。
東洋おじさんは、収容所の中で、乏しい資材をなんとか集めて、自分でカメラをつくり、ひそかに撮影を始める。


この絵本では、ミュウと東洋おじさんのカメラを通じて、第二次世界大戦の間の、日系人の強制収容の様子が描かれる。
第二次世界大戦の間、十二万人もの日系人・日本人が、十カ所の砂漠などにある収容所へ押しこめられた。
同じ交戦国のドイツやイタリアの人々にはそのようなことは起らなかった。
その十二万人の日系人のうち、六割もの人はアメリカの国籍・市民権を持っていた。
にもかかわらず、財産を没収され、強制収容され、不便な生活を強いられた。


日系人の中には、アメリカの疑念を晴らし、自分たちが立派なアメリカ人であることを示すために、戦争に志願しようとする若者たちが現れた。
親は反対したり止めたりしたが、自分たちがそのように尽くしてこそ、早くこの不条理な強制収容も終わらせることができると考え、多くの若者が軍に志願した。
そのうちの一人の、ミュウをかわいがっていたユージさんも、やがてイタリア戦線で戦死したという知らせが届く。


日系人の悲しい歴史については、映画の『ベスト・キッド』などで少しは聞いたことがあったけれど、あらためて胸が詰まった。
十二万人もの人が、これほど理不尽な目にあったということを考えると、アメリカの人種差別の根深さや、自由・平等というものへの疑問を持たざるを得ない。
もっとも、アメリカはその後、1988年に、レーガン大統領がこの時の日系人の強制収容を誤りだったと認め、謝罪し、被害者に慰謝料を支払ったそうである。


宮武東洋が遺した膨大な写真は、今は貴重な資料となっており、数年前、『東洋宮武が覗いた時代』というドキュメンタリー映画もできたそうである。


多くの日本人が、ともすればあまりよく知らない歴史を知るためのきっかけになると思われる、良い絵本だった。