絵本 「あこがれの機関車」

あこがれの機関車 (わくわく世界の絵本)

あこがれの機関車 (わくわく世界の絵本)


1900年の四月、二十世紀に入る直前、アメリカである鉄道事故があった。
嵐の夜に、ケーシー・ジョーンズという運転手が運転する蒸気機関車が、前方から突っ込んできた列車と正面衝突した。


ケーシー・ジョーンズは急いで汽笛を鳴らし続け、ブレーキを踏み続け、助手のシム・ウェッブに外に飛び出して逃げるように命じ、自分はブレーキを踏み続けて正面衝突し、事故死した。


しかし、ケーシー・ジョーンズがブレーキを死ぬまで踏み続けていたおかげで汽車は大幅に減速しており、他の乗客は誰も命に別状はなく、無事だったという。


ケーシー自身は白人のアイルランド人だったが、助手のシム・ウェッブが黒人だったこともあり、日頃からケーシーはとても人気者で、その独特の汽笛の鳴らし方とともに、汽車が通る道筋の綿花畑の黒人たちからヒーローのように愛されていたそうである。


普通であれば、その時は耳目を引いても、時とともにすぐに忘れ去られるであろうその事故は、黒人の鉄道員たちに語り継がれ、バラードの歌になって歌い継がれたために、今でもアメリカではとても有名な話で、ケーシーの死後半世紀ぐらい経ってからディズニーのアニメ映画にもなったそうである。


この絵本では、ある黒人の少年が、そのお父さんから聞いたケーシー・ジョーンズとその蒸気機関車に憧れ、自分もそのような勇気ある人間になりたいと思い、いつかこの南部の綿花畑から旅立って、遠くに蒸気機関車に乗って出発したいと思い、決意する物語が描かれる。


南北戦争から半世紀近く経っても、なお南部の黒人たちは貧しく経済的に搾取された状態で、二十世紀初頭に北部に移住する人々がとても多かったそうである。
ケーシー・ジョーンズの事故は、ちょうどその頃起こったので、汽車に夢を託することと、ケーシーの勇気や優しさと、分け隔てなくパートナーに黒人を選んでいたことへの共感とがあいまって、格別に愛される物語となり歌となったようである。


私はこの絵本を読むまで、全然ケーシー・ジョーンズについては知らなかったので、とても興味深かった。
良い絵本だった。