絵本 「あなたがもし奴隷だったら」

あなたがもし奴隷だったら…

あなたがもし奴隷だったら…


圧倒的な迫力のある絵と、深い文章によって、深く心に響く一冊となっていた。


奴隷船の悲惨さ。
途中の海で投げ捨てられた多くの人々。


単なる商品として、労働力として、ひどい扱いを受け続けた、多くの奴隷にさせられた人々。
そのような立場に、もし自分がなったとしたら、どれほどの悲しみや嘆きや怒りがあるだろうか。


ただ、この絵本を読んでいて思ったのは、それほどの苦しみの中でも、しっかりと生き抜いた人々がいたからこそ、今もアメリカに多くのアフリカ系の人々がいるということなのだろう。
「気高さには無数の顔がある。」とこの絵本で語られるが、フレデリック・ダグラスのようなリーダーも、ほとんど歴史に名が残ることもなく、ただ黙々と耐えた人々も、それぞれに、本当によくぞ耐えて生きた人々だったと思う。


あと、この絵本に書いてあって、はじめて知ったのだけれど、逃亡した奴隷の中には、インディアンの住む土地に逃げ、そこでインディアンの人々にかくまわれた人々もいたそうである。
中には、インディアンと一緒に、さらに多くの奴隷を逃がすために引き返してきた人々もいたそうだ。


また、何もかも剥奪されている生活の中で、自分たちの物語を語り継ぎ、歌をうたいついだ人々の姿には、本当に胸を打たれる。


白人たちの暴力と残酷さにはただただ唖然とするほかないが、すべての白人がひどかったわけではなく、中には命がけで黒人奴隷の逃亡を助け、奴隷制廃止のために尽くす白人もいたことも、きちんとこの絵本は描いている。
奴隷を助けることを禁じる法律までのちにできたことを考えると、それでも命がけで黒人奴隷の解放のために尽くしたアボリショニストの人々の勇気は、本当にすごかったと思う。
自分が同じ立場だったとして、同じ事ができたろうか。


南北戦争では、多くの黒人が、北軍の兵士となって戦った。
リンカーンだけが自由を与えたのではなく、黒人たちが、自らのために、また国家のために、なしたことを忘れてはならないのだろう。
「自由は与えたり、与えられているするものではない。だれかが戸の鍵をはずすことはできる。戸を少し開けることもできる。だが、そこを歩いて出るのは本人だ。」
というこの本のメッセージは、本当にそのとおりと思う。


「自由。自分と自分の生き方に責任を持つこと。
自由。自分を所有すること。
自由。自分が自分の主であること。
自由。それは責任をともなうひとつの約束ごとだ。それをどう守っていくかのか、われわれは今なお学び続けている。」


ラストで語られるこのメッセージは、本当に考えさせられる。


おそらく、奴隷制を考えることは、自由とは何かを考えることでもあるのだろう。
そして、人間とは何か、人間の権利とは何かを考え、学ぶことでもある。


多くの人に、ぜひ一度は読んで欲しい一冊。