長谷川櫂 「震災歌集」を読んで

震災歌集

震災歌集


三一一の直後に、作者が読み続けた短歌が収録された歌集。


あれから二年近く経ち、早くもともすれば風化しつつあるあの時の思いや記憶を、あらためて思い出すためにも、貴重な一冊かもしれない。


いくつか、とても心に響く歌があった。


「被曝しつつ 放水をせし 自衛官 その名はしらず 記憶にとどめよ」


「原子炉に 放水にゆく 消防士 その妻の言葉「あなたを信じてゐます」」


「原子炉の 放射能浴び 放水の 消防士らに 掌合はする老婆」


あの時に最前線でがんばってくださった消防士や自衛隊や東電の方々は、本当にあらためてその姿を思い出しても胸打たれる。


また、


「国ちゆうに 嘆きの声は みつといへど 政争をやめぬ 牛頭馬頭(ごずめず)のやから」


という歌は、本当にそのとおりだったとあの頃の馬鹿馬鹿しい政争を思い出した。
牛頭馬頭は、地獄の獄卒のことである。


「石原の 石くれのごとき 心もて 「津波は天罰」 などといふらし」
「「真意ではなかつた」などといふなかれ 真意にもとづかぬ 言葉などなし」
「言葉とは 心より萌ゆる 木の葉にて 人の心を 正しく伝ふ」


の三首も、あの時、同じことに私も同じことを強く感じたので、あらためてその時のことを思い出した。


「「日本は変はる」「変へねばならぬ」という若者の声 轟然と起これ」


アメリカに九・一一 日本に三・一一 瞑して想へ」


「復旧とは けなげな言葉 さはあれど 喪ひしもの つひに帰らず」


本当に、そのとおりと思う。


多くの人に、あらためて読んで欲しい歌集だと思う。