詩 「川について日本人が語ったこと」

ヒューズの詩に触発されてつくってみた。




「川について日本人が語ったこと」


いろんな川を私は知ってきた。
国生みと同じぐらい昔から、
この身をめぐる血潮と同じぐらい古くから、
いろんな川を。


私の心は川のように流れてきた。


岩戸川で誓約(うけい)が行われて三人の女神が生れた時、
私はその飛沫を浴びた。
五十鈴川を眺め、その上に社殿をつくったものだ。
吉野ヶ里のあたりでは小屋を建てて、そこでぐっすり眠った。
大宮人が川で遊ぶ時には、梅や山吹を運んだ。
武家が栄えては滅びていく頃には、
平家物語の一節を宇治川で聴いたものだ。
そして、川の水面が夕日で照り輝くのを見た。


いろんな川を私は知ってきた。
古くからの、川のせせらぎを。


私の心は川のように流れてきた。