詩 乙文殊院

詩 「乙文殊院


その道は、思ったよりも険しい山道だった。
登り坂を杖をつきながらのぼっていくと、
真冬というのに全身から汗が噴き出た。
息をはずませていると、
あたりの良い氣が、
自分の心身にいっぱい満ちていく気がした。
川上峡にある乙文殊院は、
佐賀県下に千五百近くある神社の中で唯一文殊菩薩を祭神にしてある神社だそうだ。
それもそのはず、文殊菩薩を本尊にしてある御寺はあっても、
神社などめったにあるものではない。
昔はその辺は大らかだったのだろうけれど、
なぜか明治の廃仏毀釈神仏分離令を軽くかいくぐって残ってきた、
そうしたありかたが、なんとも不思議で有難い気がする。
山頂の上宮は、合格祈願のための書き込みがいっぱい御堂にしてあって、
いかに地元の人々から大切に(?)されているかよくわかった。
その後ろには、神さびた巨岩があった。
あぁ、なんと素朴な、昔ながらの、中世のようなおおらかなお宮だろう。
このような場所を大切にし、家族のために祈りに来るような人こそ、
本当の知恵を持った人々ではないかと、
山頂の霊氣にすっかり元気になって、
私はまた麓に戻っていった。