呉子に学ぶ 五つの対策

呉子の中にこんな一節がある。
(図国第一篇)


呉子曰く、およそ兵の起こるところのもの五あり。
一に曰く、名を争う。二に曰く、利を争う。三に曰く、悪を積む。四に曰く、内乱る。五に曰く、饑えに因る。
その名また五あり。一に曰く、義兵。二に曰く、強兵。三に曰く、剛兵。四に曰く、暴兵。五に曰く、逆兵。
暴を禁じ乱を救うを義という。衆を恃みてもって伐つを強という。怒に因りて師を興すを剛という。礼を棄て利を貪るを暴という。国乱れ人疲れたるに事を挙げ衆を動かすを逆という。
五者これを服するに、おのおのその道あり。義は必ず礼をもって服す。強は必ず謙をもって服す。剛は必ず辞をもって服す。暴は必ず詐をもって服す。逆は必ず権をもって服す。」


要するに、軍事行動には以下の五種類があるということだ。


一、大義名分で起きるもの。
二、強国が弱小国に利益を求めて起すもの。
三、憎しみから起きるもの。
四、その国の統制が乱れているために出先の軍隊が欲に駆られて起すもの。
五、その国の経済状況が貧しいゆえに、国内の不満を外にそらすために起きるもの。



さらに、それぞれへの対策として、


イ、礼節を尽くして理路整然と相対す。
ロ、へりくだって相手を刺激しない。
ハ、外交やコミュニケーションを尽す。
ニ、巧みに相手方を欺く。
ホ、謀略を相手に仕掛ける。


といことが挙げられている。


昨夜、呉子を読みながら、この箇所を読んで、とても考えさせられた。


実際に戦争が起きているわけではないが、現下の韓国や中国に対する対応としてとても参考になるものだと思う。


一〜五のうち、韓国は一と三のみ当てはまり、中国は五つすべて当てはまると思う。


したがって、韓国への対策として、一については国際司法裁判所での決着と、理路整然と歴史的な証拠をあげていくこと、三については今までの良い外交や交流の実績の想起や、今まで通り地道な文化や経済の交流が何よりだろう。
野田政権は、だいたいこの方向にいっていると思う。


問題は中国である。
一と三については韓国と同様の対策をとるとして、二、つまり中国の面子をつぶさないことも、それなりに大事なのかもしれない。
さらに、四を言えば、アメリカと日本の同盟関係の緊密さをアピールすることや、仮に尖閣に突っ込んだ場合はひどいことになることを十二分にわかるように軍事的な示威や準備を明示しておくこと、フィリピンやベトナムなど中国と国境紛争を抱える国との連携なども必要ということかもしれない。


そして、何より五である。
率直に言って、中国の反日尖閣への挑発は、「逆兵」そのものだろう。
それだけ、国内の不満を日本にそらして、内部の統一を図っているのだと思う。


日本が中国に仕掛ける「権」、つまり謀略としては、何があるだろうか。
単純な話、中国の民主化運動を支援することに、日本は本腰を入れた方がいいのかもしれない。
もちろん、これはおおっぴらにはできないし、ひょっとしたら、極秘裏にやっていることなのかもしれない。
ただ、もしもやっていないならば、明石機関のようなものをつくって、中国の民主化支援をすることが、長期的に見た場合、逆兵を封じる最大の権になるかもしれない。


呉子の素晴らしさは、一〜五について、イ〜ホの五つの対策すべてを挙げていることである。
日本も、このどれかだけというのではなく、五つの対策すべてを駆使すべきだろう。