森元首相、不出馬の意向
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120723/stt12072310310001-n1.htm
森さんが引退すると聴いて、別に何にも感慨はないのだけど、いろいろと思い出された。
森さんは、ある意味、滑稽なほど自民党のある種の側面を象徴していて、森さんが首相で五人組の一人として権勢をふるっていた頃、当時まだ二十代だった私からみれば、実に厭うべき腐った自民党の政治家の代表の一人に思われたものだ。
クリントンを沖縄サミットで迎えた時の"Who are you?"の滑稽なエピソードや、IT革命をイット革命といったという話や、官房機密費から毎日のように四十万円ぐらいの高級料亭で飲み食いしていたという話など、もう腹立ちを通り過ぎて笑うしかないようなエピソードばかりだった。
ただ、森さんが支持率7%という前代未聞の低支持率まで落ち込んだ後、同じ政党の、しかも同じ派閥の小泉さんが後継首相となるや、いきなり高支持率になったのを見て、森さんに対する絶望以上に、この国の世論というものに深い絶望と失望を当時感じたことをよく覚えている。
今にして思えば、森さんはどこかしら憎めない、ある意味、いろんな意味で率直な人だったとは思う。
「イット革命」に関しても、後日、青少年への悪影響という点では間違いだったと率直に認めて謝っていたらしい。
そのエピソードを柳田邦男さんのエッセイ集で読んで、なんというか、愚かではあっても率直な、悪気はない人なんだろうなぁと感じた。
また、森さんが首相になる前に、「学校へ行こう」というV6のバラエティー番組に出演していて、わりと気さくでおおらかな感じで、人当たりは良い感じだったのを記憶している。
息子さんが先年、若くして亡くなったことも報道されていて、気の毒に思ったこともあった。
なんというか、いろんな意味で、ある種のあの時代の自民党を象徴する人物ではあったと思う。
辞めて欲しくないという思いは全くないし、むしろ辞めてくれてせいせいしたという気もするのだが、政界を見ていると、もっと悪い人間も随分いるのになぁという気はする。
ただ、まあ、たぶん、良かれ悪しかれ、今後の政治には、だんだんと森さんに具現されたような、派閥の中で愛想よく振る舞っていればなんだかよくわからないうちに偉くなるという、昔の自民党的な現象はなくなって、直接国民にアピールし、直接国民に語りかける力を持ち、党内の権力抗争においては非情さも併せ持つ指導者が増えていくし、そうした人々にタイプが変わっていくのだろう。
またそうであってもらわないと日本政治もたしかに困るのだけれど、小泉さんやそのエピゴーネンみたいなタイプ、あるいは山本一太さんみたいなタイプの政治家ばっかりになるならば、なんだか、それはそれで困ったものだなぁという気もする。
森さんは、たぶん、自民党が「ムラ」だった時代を良くも悪くも象徴していたのかもしれない。
「ムラ」としての自民党も、「ムラ」としての日本も、たぶん、とっくの昔に終わり、過ぎ去ったのだろう。
本当は実に醜悪で無能で非効率なものだったのだけれど、それはそれで、非情なマシーンよりはいつかなつかしく思われる時代もあるのかもしれない。
大切なのは、「ムラ」や非決定だった頃の自民や日本を美化したりなつかしまないようにすることだろう。
その点でいえば、すでに美化が始まっており、ある意味、幾分かは良い面もなかったわけではない小渕さんや橋龍さんに比べて、森さんは実に美化を妨げる実像に満ち満ちた手ごろな事例なので、今後大切な研究課題になるのかもしれない。
あんまり将来、多くの人に思い出される政治家でもないと思うけれど、ある意味とても興味深い人ではあったと思う。