BBCの第一次大戦の特集番組 (The Great War)

BBC第一次世界大戦の特集を見終わった。
BBC第一次大戦の九十周年ということでつくった特集番組だそうで、本当に力が入っていて見ごたえがあった。

一次大戦は悲惨過ぎたと改めて思った。

この特集では、第一次大戦前夜の様子から始まっていたが、ジャン・ジョレスが暗殺されなければ、少しは違っていたのかもしれないと思った。
フランスの社会主義運動の中心だったジャン・ジョレスは、石川三四郎の伝記にも出てくるが、すごい人物だったらしい。

歴史は偶発的な出来事に意外と左右されるもので、肝心要な時に重要な人物が死んでしまったり、あるいはちょっとした出来事で連鎖的に状況が動くことがある。

第一次大戦が、たった一発のサラエボでの銃声から始まったことも、あらためて暗澹たる気持ちになる。
第一次大戦を見ていると、あまり緊密な同盟関係を結んでると戦争に巻き込まれることを考えさせられる。

第一次大戦の最初の年のクリスマスには、イギリスとドイツの両軍でクリスマス・ソングが歌われ、一時的に休戦し、部分的には交流もあったという話もこの特集では取り上げられていて、なんとも胸を打たれた。

第一次大戦では、アフリカ出身の兵士も多く動員されたようで、たしかに世界戦争だったようだ。
女性も、だいぶ勤労動員されたらしい。
総力戦の始まりだった。

第一次大戦では、毒ガスの被害が深刻だった。
日本では、今まであまり深刻な毒ガス戦はなかったようだが、一次大戦のフィルムの、手足が震える後遺症を持った人々の姿を見ると、なんとも胸が痛んだ。

第一次大戦の初期において、実際にドイツ軍に残虐な行為もあったようだが、かなり誇張されてマスコミによって蛮行が伝えられたらしい。
マスコミの力の始まりだったようだ。 
プロパガンダが人々の心まで広範に動員したようだ。

あと、この特集では、トルコによるアルメニア人虐殺の様子も少し映っており、本当にひどかったらしい。

ガリポリの戦いも悲惨なものだったと、この特集で本当に知らされた。
ケマル・パシャはすごすぎる…。
日露戦争を別にすれば、東洋が西洋に痛撃を与えたのはこの戦だったかもしれない。

ヴェルダンとソンムの戦いの、あまりの犠牲者の多さにも、ただただ絶句する他はなかった。
ただ言葉を失うばかり。
あまりに悲惨過ぎる。 

もう一次大戦でやめとけばよかったのに、と、ヴェルダンやソンムのありさまを見ていても、思わざるを得なかった。
しかし、一次では終わらず二次まで行い、しかも一次大戦から九十年以上経った今も、なかなか世界からひどい戦場もなくなってはいない。
人類というのは、かほどに愚かということか。

善導大師が地獄の光景を描く中に「鉄網身を鉤すること棘林のごとし」(鉄の網が身体に引っ掛かり、まるでいばらの林を行くようです)という一文があるが、第一次世界大戦西部戦線の鉄条網は、まさにこの言葉かもしれないと思った。
地獄は、あの世だけでなく、時に人の世にもあったし、ありうるのかもしれない。

戦争神経症(shell shock)の映像もあり、なんとも胸が痛んだ。
第一次大戦は、悲惨過ぎた。

最終話は第一次大戦の残したはかりしれない心身の傷を描いていて、胸がつぶれた。

福田和也さんが、何かの文章で、日本は第一次大戦を無傷で過ごしてしまったのが、のちのち響いたと言っていたけど、そうだったのかもしれない。
一次大戦の教訓をきちんと汲み取っていれば、いろいろ違ってたのかもしれない。
どうも感覚が欧米とずれてた気がする。

日本が簡単に国連を脱退したのは、一次大戦の悲惨さを全然知らなかったことも大きかったのではないかと思う。

第一次大戦の後発足した国際連盟では、日本は常任理事国だった。
事務局次長に新渡戸稲造が就任した。
今考えてみれば、第一次大戦の後、国連の常任理事国だった頃が、日本が最も国際的に高い地位を占めていた頃かもしれない。
第一次大戦の悲劇を他人事とせずによく受けとめて、地道にその務めを行っていればと本当に思う。

パリ不戦条約は、条文だけ見ればごく短いもので、無味乾燥なものかもしれない。だが、その背後に、第一次大戦のおびただしい犠牲や苦しみや悲しみを、どこまで感じることができたか。
それが大事だったような気がする。
日本は第一次大戦後、どうも国際社会のそうした感覚とずれがあったような気がする。

今もパリ不戦条約は効力があるわけだから、当事者として、日本も心がけた方が良いのかもしれない。

現代語私訳 パリ不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)
http://d.hatena.ne.jp/elkoravolo/20120110/1326164794

また、今回、この特集番組を見ていて、つくづく思ったことがある。

それは、今の三十代つまり私の世代を、失われた十年乃至二十年の世代という意味で「ロスジェネ」と呼ぶ場合があるが、しかし、第一次大戦の本当の「ロスト・ジェネレーション」の悲惨さは、我々とは比じゃなかったろう、ということだ。
一次大戦の悲惨な戦場から比べれば、今の日本は平和なだけ、比較にならないほどありがたい。

一次大戦の地獄の戦場からすれば、そしてそこで、文字通り身体も心も生命も失い果てたロストジェネレーションからすれば、今の日本の我々ロスジェネ程度の苦労や不如意など、なんと甘えた贅沢なものだろうかと思う。
自由に生きていられるだけ、はかりしれないありがたいことだと思う。

後世の我々ができることがあるとすれば、せめてもこの歴史を忘れず、そこから何がしかを汲み取り、彼らの悲しみや死を無駄にしないことかもしれない。
人類は愚かなことかもしれないが、歴史を忘れないことにより、せめても単なる同じ過ちの繰り返しではない、多少の違いをつくっていくことが、せめてもの後世の人間の務めであり、できることだと思う。

本当に、力の入った特集だった。
多くの人に見て欲しい番組だ。

BBC The Great War (全七話)