デカルト 「方法序説」

方法序説 (岩波文庫)

方法序説 (岩波文庫)


本当にこれはすごい本だ。
デカルトは人生の達人と思う。
なかなか、これほどすごい本はないと思う。


読んでいてあらためて感じるのは、デカルトは、非常に慎重で、思慮深いということ。


そして、何より、いかに生きるかのために哲学をしていた、切実にそうした意識を持っていた、ということだ。


通俗的な解説書だと、第四部の「われ思うゆえに、我あり」ばかりが紋きり型にとりあげられるけれど、全六部、それぞれに、丹念に読めば、とても触発され、生きていくために直接役に立つ多くのメッセージがこめられていると思う。


やや大雑把に要約するならば、第二部では、


・明晰な認識にのみよるべきで、独断や偏見を避けるべきである。
・問題は、小さな部分に細かく分けて考えるべきである。
・思考は、順序正しく行うべきである。
・結論は、十分にチェックして枚挙すべきである。


ということが、


第三部では、


・できる限りに穏健に生きること。
・志操堅固に、ひとたび決めたことは迷わずに断固行うこと。
・運命によりはむしろ自分に打ち勝とう。世の中の秩序を変えるよりは、むしろ自分の心を変えよう。
・自分の与えられた仕事をこなし、かつ世の中の人々の善いところをよく見る。


ということが述べられていると思う。


特に、「運命によりはむしろ自分に打ち勝とう。世の中の秩序を変えるよりは、むしろ自分の心を変えよう。」 
ということは、非常に考えさせられる。もちろん、本当は前者も大事なのかもしれないが、後者がよくできた上ではじめてそうも言えるだろう。


並みの成功哲学を読むよりは、デカルトの『方法序説』の第二部と第三部に書かれているそれぞれ四つずつの原則をしっかり繰り返し読んで考えて身につける方が、よっぽど良いのではないかと思う。
だいたい、世の成功哲学の原則も、これに含められるのではなかろうか。


また、第六部で述べられている以下のことも、とても考えさせられる。


・人間の精神は体質や身体に大きく関係しているので、人間を賢明に、有能にする手段は、医学に求められる。
・人はおのおのその持てるかぎりのものをもって他人の幸福を図るべきであり、かつ、現代よりはるか後世に配慮が及ぶべきである。
・誰しも、他人から学ぶ場合は、自分みずから発明する場合ほどに、何事にせよそれほど十分によく考えることも、それを自分のものとすることもできない。


とても考えさせられるメッセージだと思う。


人生の達人としてのデカルトの姿は、方法序説のみでなく、デカルトエリザベートやシャニュに宛てた手紙(『世界の名著』シリーズのデカルトの巻所収)にもよく表れている。
それらの手紙も、人生の叡智のエッセンスが簡潔に綴られた名文なので、方法序説と併せて、繰り返し読み返したい文章だと思う。


デカルトは、紋きり型の図式ではなく、デカルトそのものとして、丹念に読み直され、読み継がれるべき存在だと、本当に思う。


人生の方法として、とても大事な一冊だと思う。