
- 作者: 堺利彦
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/10/23
- メディア: 文庫
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面白かった。
この本は、堺利彦が社会主義者になる前の半生を描いたものなので、直接は社会主義に関する話は一切ないが、生い立ちや、人生の上で出会った人々のことや思い出話が書かれてて、とても面白かった。
明治初期の旧小倉藩の士族の様子や、明治初期の学生の様子、新聞記者の様子などについて、もっともよくわかる、貴重な証言なのではなかろうか。
文学にうつつを抜かし、しょっちゅう人生をすべって失敗しては、それでもなんとか生きていき、人を愛し人から愛される、どこかしらのほほんとユーモラスな筆致から浮かびあがってくるその人柄は、なんというか、面白い人だったんだなあとしみじみ思わされた。
この自伝の、ここから先の堺の闘いこそが、本当にシビアな大変なものだったのだろうけれど、それはちょくちょくまた調べて読んでいこう。
もっと早く読めばよかったなあ。
思うに、たぶん、堺の心の根底には、旧小倉藩の士族のぬくもりのある閑雅な共同体が、維新後に没落していったことへの愛惜があり、また、自由民権運動が次第に士族のものからブルジョワのものとなっていったことへの違和感があり、後年に社会主義者になっていったというのも、どこかしら無機質な近代資本主義社会への違和感や抵抗感がもとになっていたのではないかという気がする。
もちろん、人間への深い愛情や正義感も、当然社会主義者になっていったことの根底にはあったのだろうけれど、読んでてどうも上記のような気がした。
幸徳秋水や大杉栄のような悲劇的な死を遂げたわけではなく、彼らのように派手な英雄というわけでもなく、みずから平凡を任じていたようだけれど、実際は長くあの大変な時代を生き抜いた堺こそ、本当の意味で偉大な非凡な凡人凡夫だったような気もする。
どこかしらユーモラスなところが、長生きの秘訣だったのだろうか。