上田紀行 ダライラマ 「目覚めよ 仏教」

目覚めよ 仏教!  ダライ・ラマとの対話 (NHKブックス)

目覚めよ 仏教! ダライ・ラマとの対話 (NHKブックス)


著者の上田紀行さんとダライラマとの、仏教復興についての対話をまとめた本。

とても熱い対談で、その熱が本を通じても伝わってくるようだった。

金にばかり価値を置く現代社会の行き詰まりやひずみの指摘。
愛や思いやりこそが、人生に本当の安らぎや豊かさをもたらすのであり、愛や思いやりを育むのが仏教であること。

社会の不正に目をつぶって何もしないのは仏教の精神に反することであり、動機は慈悲の方便としての「怒り」、つまり問題を解決しようと問題と付き合い、正そうと努力し、場合によっては叱るような態度も必要だということ。

慈悲は社会活動という形で実践すべきであること。

条件付きの愛ばかりではさまざまなひずみが人間の社会には起こってしまう。
無条件の愛こそ人を支え育むものであり、精神神経免疫学の観点からも愛や思いやりを自分に向けられていると感じることが免疫を高めて健康を増進すること。

などなど、あらためて大事なことを教わった。

また、対話のはしばしに現れる、ダライラマのエネルギッシュで魅力的な姿は、本当にあらためて感心。

著者の方の、形骸化した日本の現状の仏教への危機意識と、なんとかリバイブさせたいという熱意も、共感させられた。

ただし、”慈悲に基づく「怒り」”という言葉は、非常に誤解を招きやすい表現だとちょっと危惧させられた。
嫌悪の感情からではなく、動機はあくまで慈悲であり、外に現れる姿が方便として叱ったりすることなど「怒り」をあらわすことであるという風に、ダライラマは「慈悲に基づく正しい怒り」について文中できちんと説明して、それならばもちろん正しいことだと思うけれど、凡夫が自分の怒りを勝手に「慈悲に基づく怒り」だと正当化するとしたら、仏教からはかなり逸脱してしまうと思う。

あと、ダライラマがタイでの開発僧など、社会事業に取り組む僧侶たちがいるということをこの対話ではじめて知ったように言っておられるのに、ちょっと驚いた。

ただ、そういうこともひっくるめて、時に奇抜な表現をきちんと論理的に定義づけながら自由に語るダライラマや、自分が知らなかったことは率直に取り入れながら、何も恐れることなくとらわれることなく自由に語るダライラマは、本当にすごい、本物の人だなあと思う。
少しも権威主義的なところがない。

私も、以前講演会の質疑応答の時間に、二回もダライラマに質問して答えていくことができて、その時も本当にその慈愛と智慧に胸打たれたけれど、あらためてダライラマの魅力を知る一冊だった。

また、いろいろ読んだり、機会があれば講演会に行きたい。