ムハマド・ユヌス 自伝

ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家

ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家


先日、ユヌスさんの講演を聴いて、その風格とメッセージに深い感銘を受けたので、この自伝を読んでみた。
本当に素晴らしい、印象深い本だった。

ユヌスさんの子ども時代の話も興味深く、日本軍が攻めてくるかもしれないと大人たちが話していたというエピソードも興味深かった。
中でも感銘深かったのが、ユヌスさんの父の話。
ユヌスさんの母は美人ですぐれた人だったそうだが、ユヌスさんが少年のころ、理由はわからないが精神を病んでわけのわからないことを口走り行う状態になってしまったという。
けれども、ユヌスさんの父は、妻に対する尊敬の態度を少しも変えず、それからの三十年ほどの間、変わらぬ愛情と落ち着いた態度で接し続けたという。
ユヌスさんの偉大な人格には、この父あればこそなのだろうなぁと感動させられた。

また、ユヌスさんが若い時にアメリカに留学に行き、そこでバングラデシュの独立の時期に際会し、留学生や在米の高官たちと連携してバングラデシュの独立を支持するように国際世論に働きかけたという話も興味深かった。

そして、もちろん何といってもこの本のテーマである、グラミン銀行設立とマイクロクレジットの話は、本当に感動させられた。

マイクロクレジットとは、無担保で少額の融資を貧しい人々に行うことであり、グラミン銀行はそのためにユヌスさんが設立した銀行である。

当時、大学の経済学の教授だったユヌスさんは、バングラデシュの打ち続く飢饉に心を痛め、近隣の農村の調査を行い、そこでほんの少しのお金さえあれば、自分で材料を買ったり事業を行って独立できるはずの人たちが高利貸に支配されて一生を貧困の中で過ごしている姿に衝撃を受け、なんとかその改善を目指した。
しかし、頭の固い銀行や政府官僚はぜんぜん動かなかった。

独力でマイクロクレジットをユヌスさんが始めたことにより、どれだけの多くの貧しい女性たちや人々の人生が劇的に変わったか。
この本を読むと、本当に驚かされ、心打たれる。

さらに、グラミン・グループの輪がどんどん広がり、アメリカなどでも大きく人々の暮らしを変えていったというエピソードにも胸を打たれた。

ユヌスさんが、官僚組織は基本的に意欲を持たず、頭が硬直していることを認識し、政府に頼らずに、民間の組織によって活動する大事さを説き、
かつ、一般的な現代の経済学や市場原理が資本の論理や自己利益ばかりなのを批判して、
貧困をなくすために、社会的な責任感や使命感を持って、きちんと採算を考えながら事業として展開する「ソーシャル・ビジネス」の概念と理想を主張していることは、本当に魅力的だし、二十一世紀において最も大事なことだと思う。
現代の日本によくありがちな、単純な新自由主義批判や単純な新自由主義擁護とも一線を画す、非常に重要な視点だろう。

ユヌスさんが、発展とは、底辺の25%の人々の生活の質を上げることだと主張することも、なるほどと思った。

「私は人間というのはそれぞれみな、まだ発掘されていない財宝のような存在だと固く信じている。人それぞれに限りない可能性を秘めている。
この星に次から次に生まれてくる人が、地球上の資源を消費し、緊張を生み出しているのは事実である。しかし、世界が幸福へ向かうための貢献者としても生産者としても、人間は巨大な可能性を持っているのである。」(295頁)

という言葉は、本当に貴重な、感銘深いことばだと思った。

現代社会について、この世界について、人間の可能性について、大きな示唆と希望とビジョンを与えてくれる素晴らしい一冊だと思う。