竹中平蔵 「改革はどこへ行った」


この本の中で著者は、日本経済の迷走の原因は麻生内閣による改革の後退にあると指摘。
以下のように述べる。


政策には、ばら撒きによって一時的に人々を救済するヘルプの政策と、本当に構造的な問題を解決するソルブの政策がある。
今の日本に必要なのはソルブの政策である。
しかし、麻生内閣は百年に一度の危機を言い訳にヘルプの政策ばかりを行い、改革を大きく後退させた。


郵政の実質関連会社は219もある。
郵政省や郵政公社から、それらに二千人もの天下りが行われていた。
日本の郵便料金は、アメリカに比べて高いが、天下りがコストを高めているからである。
かんぽの宿売却は、そもそもはそれほどの値段にしかならないものをつくった時の人々の責任の問題である。
しかし、麻生内閣では郵政民営化の後退が進んだ。


麻生内閣では政策金融改革も大きく後退した。
日本は欧米の三、四倍もの政策金融があったので、政策投資銀行商工中金を民営化し、政策金融公庫に政策金融を一元化することが決まった。
にもかかわらず、麻生内閣では政策投資銀行を使って巨額の政策金融が行われた。


百年に一度の経済危機を理由に、官僚は巨額の予算を分捕り、小泉内閣以来の財政再建の努力を瞬時に無駄にし、再び膨大な財政赤字を作り出した。
今起きているのは、霞が関復権と肥大化である。


・終身雇用組織であるため、政策に利益をからめる。
族議員との関係があって、思い切った政策ができない。
この2つの理由により、官僚に政策を任せてはならない。


社会保険庁の不祥事は、官僚が公務員制度改革をめざす安倍政権をつぶすために仕掛けた自爆テロだった。


霞が関や、メディアは、さまざまな手段を使って改革を骨抜きにしようとしている。


よく言われる小泉改革が格差をつくりだしたというのは、データの根拠は何もない。
格差の指標となるジニ係数は80年代以降常に上昇しており、むしろ小泉政権時代にはその伸びはゆるやかになっている。


地方経済の衰退は、地方の産業の衰退が理由であり、グローバル経済の問題である。
構造改革を進め、地方に強い産業をつくり、あるいは外資を誘致することが地方経済を活性化する。
また、地方自治体の改革がほとんどの場合不十分であり、公務員の給与を減らさないのに公立病院を閉鎖したりしている。


派遣切りの問題は、本当は正規雇用と非正規雇用の制度的格差の問題である。
同一労働同一賃金、非正規雇用が失業保険や年金に入れるようにすること、およびワークシェアリングを進める日本版オランダ革命こそが必要な改革である。
単純に派遣を減らせば、請負が復活するだけである。


政府はほっておくと肥大化する。
小さな政府を目指すとは、政府の肥大化に歯止めをかけること、
つまり、消費税を10数パーセントでとどめるか、あるいは25%以上までするかということである。

消費税は地方の財源にすべきで、消費税を社会保障目的に限ることは地方分権を大きく阻むことになる。
しかし、今そうした議論がまかりとおっている。


良質の政策NPOやポリシーウォッチャーの存在が必要である。


政権交代自体は政治に競争原理が働くことで、良いことである。
しかし、民主党は二重性格がある。
前原国交相が決めた八ツ場ダム工事中止は評価できる。
しかし、一方で郵政や日教組などの族議員が跋扈している。


また、民主党には、マクロ経済のコンセプトが欠如しがちである。


赤字財政を再建するためには、歳出削減・経済成長による税収増加・増税の三つのすべてを行うしかないが、民主党は前二者を怠り、増税に傾いている。
今後、重税国家が危惧される。


今後は、民主党の前原派、自民党河野太郎派、みんなの党などを結集した勢力の結集と、強力なリーダーの出現、政界再編が期待される。


以上のような内容だった。


竹中さんの意見に一理あることも多いと思った。


ただ、最後の政界再編のすすめは、ちょっと私は首をひねらざるをえない。
新進党の停滞と分裂で90年代の日本の政治が大きく低迷したことを考えれば、再び民主党が分裂する事態はなるべく避けた方が良いと思う。


けれども、仮に竹中さんたちを批判して乗り越えようとするのであれば、きちんとしたデータや情勢把握に基づいて、どう重税国家を避け、ヘルプの政策だけでないソルブの政策を打ち出すかということを研究していないと、「改革」や政界再編の波に対して、あまり意味のある抵抗はできないのかもしれない。


なお、竹中さんは、五つの改革を提案している。


1、 法人税減税と納税者背番号制
2、 羽空港拡張と国際化・オープンスカイ
3、 東京大学民営化
4、 農地法改正
5、 インフレ目標


このうち、2は実現しつつあることだが、他はまだまだこれからなのかもしれない。