竹中平蔵 「構造改革の真実」

構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌

構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌


とても面白かった。

竹中平蔵さんが小泉政権で閣僚として過ごした五年五ヶ月の日々を、当時の日誌をもとに回想している。
不良債権の処理や郵政民営化経済財政諮問会議の運営といったことについて、とても明晰な文章で生き生きと書かれていて、小泉改革の時代を知るために本当に良い貴重な資料と思う。

不良債権処理に向けての竹中さんやその側近の岸博幸さんたち「竹中チーム」の意思の強さと頭脳の明晰さと準備の良さには、読んでいて本当に感嘆させられた。
よくぞあれだけの不良債権を、十年もその処理が進んでいなかったのに、あの時期に断固として処理してくれたものだと思う。

そうした体験から、竹中さんが、「行政とは細かな法的行為の積み重ね」だと指摘し、国民や有識者が政治プロセスをよく理解することの大切さを訴えているのは、とても重要な提言だと思う。

金融改革の教訓として竹中さんがあげている、

1、「戦略は細部に宿る」ので、政策については細部を官僚に任せることなくしっかりと制度設計をしなければ成果は挙げられない。
2、無謬性にこだわる官僚マインドが改革を阻む岩盤になっている。
3、日本には過去の政策と行政の総括が十分に行われていない。どの分野でも、きちんとした検証が、行政府から独立した専門家によってなされるべきである。

という三つのことは、今後も日本にとって非常に重要なポイントと思う。

また、郵政民営化についての竹中さんの回想を読んでいると、その政策形成のための前々からの準備と努力、および民意を形成するための情報発信への地道な努力や、要所要所での小泉さんの意志の強さにはとても感嘆させられた。
もちろん、郵政民営化については賛否両論いろいろあるとは思うが、ひとつの政策を実現するための努力や方法については、大いに参考になる部分があるのではないかと思う。

また、経済財政諮問会議についての話もとても興味深かった。
経済財政諮問会議は、民主党政権において廃止されて国家戦略室へと変えられていったけれど、経済財政諮問会議の良かった部分はよく参考にして国家戦略室(局)もがんばって欲しいと思う。

また、本書の最後の方で、小泉政権下でも官僚や一部の自民党の政治家が消費税増税を主張したが、竹中さんや小泉さんはその声を抑えて、消費税を増税せずに財政再建を通じた景気回復を目指した事、実際に消費税を増税せずにプライマリーバランス赤字幅を半減したことを述べていたことは、最近の菅民主党の消費税増税論議においても、とても参考になる話ではないかと思った。
竹中さんが言うには、景気低迷による税収の落ち込みで財政再建のために消費税を増税するとさらに景気が悪化して税収が落ち込むという悪循環になり、それに対して、増税バイアスと闘って、増税をせずにプライマリーバランスを回復する努力をし、そのことによって景気を回復させ税収を増やして財政再建をめざすのが良い循環であり政治が目指すべきなのはこちらの方だという。  

小泉・竹中路線については、いろんな意見や評価があるとは思う。
私も、不良債権処理や消費税増税をせずにプライマリーバランス赤字幅を半減した事は素晴らしい功績だったと思う反面、社会保障や雇用問題についてはもっと他にやりようがあったようには思う。
ただ、批判するにしても、一度この本を読むべきであり、学ぶところは多いのではないかと思う。

猛烈なバッシングにもかかわらず、信念を持って大きな仕事をなしとげた竹中さんと、その竹中さんを終始一貫信頼して守り通し、決してぶれずに要所要所で明確な意志の決断をしていった小泉さんは、名コンビだったんだろうなぁと思う。
「正々の旗、堂々の陣」「勝ってよし、負けてよし」という言葉も、なかなか感銘深かった。

これからの日本には、政策専門家の要請と、「よく知らされた国民」(well informed public)が重要というのも、本当にそのとおりと思った。

もし、小泉・竹中の政治ののこしたものを引っくり返し、乗り越えようとする政党や政治家がいるならば、彼ら以上の意志と努力が必要だろうし、彼らぐらいの名コンビが現れないと、なかなか良い方向にさらに進ませるのは難しいかもしれない。
彼らの路線を継承しようとする人はもちろん、その路線を批判して乗り越えようとする人も、大いに参考にすべき本なのではないかと思う。
改革マインド・スタッフ・支持する国民の存在の三つがなければ、新自由主義にしろ社民主義にしろ、決して前には進まない。
この三つについて、小泉・竹中両氏は、新自由主義の立場からは、実に見事な仕事をしたと思う。