バラク・オバマ 「合衆国再生」

合衆国再生―大いなる希望を抱いて

合衆国再生―大いなる希望を抱いて

なかなか面白かった。

まだ大統領になる前に書かれたこの本の中で、オバマさんは、

「自分自身の意思で自分の人生を、自分の望む形につくりあげることができるし、つくりあげなければならない」

ということがアメリカの理念であり価値であるとし、自らの信条として説いている。

そのうえで、エンパシー(共感)の不足の問題を指摘し、格差社会の是正のためにさまざまな提言をしている。

アメリカの抱えている課題と、政治活動の貧弱さの間の、大きな溝を指摘している。

いま、大切なのは、国家再建計画にふたたび関わりあい、自分の利益と他者の利益はつながりあった不可分のものと理解し、格差是正や社会の再生のための政策にとりくむことだと、穏やかにかつ情熱的に訴えている。

これらの提言は、その多くが、そのまんま、日本にもあてはまることなのかもしれない。

社会的流動性や、公正な貿易、科学教育の重視なども、なるほどと思った。

また、社会保障の理念が「私たちは運命共同体」というもので、それに対してブッシュの唱えたオーナーシップ社会というものの理念は「自分の面倒は自分でみろ」というものだと指摘している。
オバマさん自身はどちらかといえば、前者に傾斜しているようである。

ただし、重点を福祉ではなくて仕事、つまり人びとに依存心を生む政策ではなくて自立して仕事をしていけるように手助けすることに力点を置くことを主張していた。

党派対立の乗り越えや、信仰に対する民主主義的多元主義、自由を尊重しつつも格差社会の是正を主張する、その穏健かつ情熱的な主張は、たしかになるほどと思わせるものがあった。

最終章で、オバマさんが自分自身の「父親不在」の人生の思い出を語りつつ、

自分に夫や父親の資格はあるのか?と自問し、良き夫や良き父たるように常に心がけ努力していること、

「成熟した大人の男になるには何が必要か?」と問い、人びとにも問いかけているところは、特に興味深かった。

オバマさんも、苦労して、最初からできた模範的な人間だったというわけではなく、そのように意識して自問して努力することにより、徐々にかくのごとく穏健で立派な態度を身につけてきたということなのだろう。

私も、それらの自問は、折に触れて心がけていきたいと思った。

なかなか面白い一冊だった。
日本にも、これぐらい国民に語りかけ、自分のビジョンを丁寧に提示できる政治家が、もっと現れないものだろうか。