藤原肇 「小泉純一郎と日本の病理 Koizumi's Zombie Politics」

小泉純一郎と日本の病理 Koizumi's Zombie Politics (光文社ペーパーバックス)

小泉純一郎と日本の病理 Koizumi's Zombie Politics (光文社ペーパーバックス)


まぁまぁ面白かった。

まず、本の最初の方では、小泉さんのしばしば噂される、いくつかのスキャンダルがとりあげられて論じられている。
ちょっとにわかには信じられないものもあるが、もし本当だとすれば、小泉ファミリーとはいったいなんなのだろうかという気がする。
ただ、あんまりそれらのスキャンダルについても十分な考証が本書ではされているわけでもないので、ゴシップの類にとどまるかもしれない。

また、小渕さんや竹下さんが亡くなった頃の、日本の政治のほとんどクレムリン的な様子や、森さんについてのかなり驚くような話がいろいろ書かれている。
忘れていることも多いので、たしかにあの頃の自民党はひどいものだと読みながらあらためて閉口させられた。

本書が単なるスキャンダル・ゴシップ本にとどまらないのは、そこからさらに天下国家の在り方を論じているところである。

日米構造協議以降、いかに日本がアメリカにいいようにされてきたか。
いかにアメリカの走狗となりながら、日本を食い物にしてきた自民党政治家や官僚たちがいたか。
そうしたことが、そういえばこんな事件もあったなぁという出来事を辿りながら本書は批判している。

本書によれば、泉井事件や厚生省の岡光事件など、そういえばあったなぁと思う昔の事件に、それぞれ小泉さんは絡んでいたそうである。

さらに本書は、倫理を伴わず、利潤だけを求め、国家に寄生する人々が巣食う資本主義を「賤民資本主義」と呼び、本来の近代資本主義と区別して、痛烈に批判している。

本書の著者が言うことをどこまで信用するか、またそのとおりに賛同するかは別にして、いくばくか日本の資本主義が政府や官僚に寄生虫のような存在があまた存在するものであり、その点で賤民資本主義の様相を呈しているのはたしかかもしれない。

また、本書は、小泉さんや安倍さんの「留学」は、実際は留学の実態を伴わない単なる「遊学」であることを痛烈に批判し、日本の指導層や国民の知的水準の低下を憂いている。
そうした貧弱な知性の指導層と、それに対して批判精神を持たないメディアや国民が、貧困な政治を生じ、政治の貧困が経済大国を扼殺した、と論じている。

今、民主党が多くの国民を失望を買い、自民党復権が視野に入ってきたけれど、自民党もこの本で指摘されているような問題が多々あったことは、あんまり国民も忘れない方がいいかもしれない。

もちろん、この本を必ずしも真に受けるかどうかは各人の判断力や思考力の問題で、もっと具体的に小泉政権の個々の政策やデータを検証する必要はあるかもしれない。

しかし、小泉政権の間に、この本が指摘するように、国の借金は増え、国民一人当たりの平均月収はかなり減ったのは事実なのだろう。

小泉さんについて評価する本と、こういう本と、あわせて読んで各自考えていくことが、大事なことなのかもしれない。

さらに言えば、この本が言うとおり、賤民資本主義から脱却するためには、小手先の政権交代などよりもまず、日本人が各自、近代社会の根底の概念・仕組み・倫理をとらえなおし、「公共善」に軸を置いた国家社会を構想し、取り戻すために努力することが何よりも大事なことかもしれない。